集結

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寂しいな… | わたしがおるから | 右那と左那 | 100年分の痛み

767 名前: :2006/06/04(日) 23:30:11 ID:p5pDVscy0
き……きょ、今日、は……あっ、あの……人……だ、だい、だいっ……大学、お……お休、み……。
ふっ……ふ、二人……きり……。ん……ふ、ふ……ふ……。う、うれ……うれ……し……。
ま、まだ……ひっ、昼間、だし……あ、あた……あたし……の……こと、み、見え……ない、けど……。
よ……よっ、夜、に……なれ……ば……。ん、ふ……ふ……。
は、はや……早、く……よ、夜……に、なら……ない……か、かな……。

ピンポーン
「? はーーーい」

ぁ…………?だ、だれっ……誰、か……き、来た……?だ……誰……だろ……。

「あれ、どうしたの?」
「いやぁ、はは、暇だったんで。今忙しい?」
「んー……いいよ。入って」

あ……あの、人……の、お、お友達……みた……い……。ちょ……ちょ、と……残念……。
……ん……?あ……あの人……く、口……う、うご……動か……して……?
ぁ……。い、今……ご、「ごめん」……て……?
ん、ん……ふ、ふ……ふ……。や、やさ……優し……人……。だ、だか……ら……す……好き……。
わ、わか……わ、わか……た……。い、いい……よ。で、でも……よ、夜は、ふっ……二人……が……いい、な……。

そっ……それじゃ、し、静か、に……ま、待っと……こ………………………………

………………ひっっっ!?!?!?!?


768 名前:〇月〇日 :2006/06/04(日) 23:31:01 ID:p5pDVscy0
休日だというのに朝っぱらからぐうたらぐうたら。昼食も食わずにぐうたらぐうたら。こいつは本当に並々ならぬ馬鹿ぞ。
……手が掛かる子程可愛い、か。わたしがおらんことには、というやつか。……しょうのない奴ぞ。
わたしが尻でも叩いてやろ。しかし言葉は聞こえんし姿も見えんしの……。やっぱり部屋の壁に血で書いてやろか。

『いつまで寝ておるか。若い者がだらしない。しゃきっとせいこの馬鹿が』

おお、久々に泣きおった。本当に愛い奴ぞ。
震えながら出かける準備をしておる。逃がさんぞ。勿論、わたしも行くぞ。

「あれ、どうしたの?」
「いやぁ、はは、暇だったんで。今忙しい?」
「んー……いいよ。入って」

大学の友人の部屋か。まあ良かろう。友好を深めるのも良かろう。
だが寝首は掻かれるなよ。ま、わたしがおるから心配無用だがの。

ん……?

ここにも……幽霊なぞ……おったのか……。


769 名前: :2006/06/04(日) 23:31:49 ID:p5pDVscy0
「友達の部屋行きますけど、留守番してます?」

私達は置いてけぼりなの?そんなことないわね?右那、行きましょう?
あなたに何かあったらいけないわ。私達と一緒にいれば安心。ね、左那?

「はは、それじゃ一緒に行きましょうか」

私はあなたの右肩がいいわ。左那、いいでしょう?
いいわよ、右那。それじゃあ、私はあなたの左肩ね。重くない?

「大丈夫ですよ」

ふふっ、頼もしいわ。ね、右那?
そうね、頼もしいわ……ふふふ。ね、左那?

「ここですよ」

……。
……。

「どうかしました?」

良くないわ。でも、私達がいるから。心配ないわね、右那?
ええ。良くないわ。私達、暫く姿を消すから。ね、左那?


770 名前:ぜろ。 :2006/06/04(日) 23:32:42 ID:p5pDVscy0
「う〜〜〜ん」
玄関で靴紐を結んでいたところ、沙紀さんの悩ましげな声が台所で響く。ふむ。ずばり夕食の献立に悩む声。
「肉じゃが」
ぼそりと推薦候補を挙げてみる。右足の靴紐を結び終える。同時に、沙紀さんが笑顔でくりっと視線を僕に投げ掛ける気配を感じる。
「肉じゃが?食べたい?それじゃあ今晩は、肉じゃがで。ね?」
沙紀さんがにこやかに聞き返す。白い頬にえくぼが浮かんでいるだろう。うんうん。幸せです。左足も結び終える。
「よしよし、お楽しみに。ふふ……。……う〜〜」
夕食の献立は決定したはずなのに、しかし沙紀さんの悩ましい声は続いた。
「どうかしたの?」
「あ……えーっと」
これから出掛けるところだったが沙紀さんの様子が気になった。顔を上げて、沙紀さんを窺ってみる、と。
「…………い、一緒に、行ったら……だめ、かなぁ……って……」
「え?大学の友達の部屋に行くだけだよ?」
「ん……うん……なんか、心配で」
沙紀さんの顔はいつも真っ白だ。血が全部抜けちゃったからね、なんて冗談めかして言う程だ。だが、その沙紀さんの顔が今は真っ青だ。
「あなたが心配で……」
なにやら、予感めいている様子だ。幽霊だからなのか、沙紀さんは鋭い。かなり。本やDVDも簡単に以下略。
僕には分からないが、沙紀さん、何か危険なことでも感じ取ったのだろうか。
「一緒に、行く?」
玄関口で向かい合って、モジモジと僕を引き止めたそうにしている沙紀さんを見ていて、僕は決心した。
「うん!」
沙紀さんが宿った重い重い石を鞄に入れて、担いでいくことを。


771 名前:暇な男達 :2006/06/04(日) 23:33:30 ID:p5pDVscy0
「あれ、どうしたの?」
「いやぁ、はは、暇だったんで。今忙しい?」
「んー……いいよ。入って」

ピンポーン

「あれ、また。誰かな?あ。あがってて」
「おぅ、お邪魔しますー……」
「……はい」
「や」
「やぁ、珍しいね。どうぞ、あがって」
「ありがとう。お邪魔します」

ピンポーン

「ん?また?はいはい」
「あ、こんにちはー。今大丈夫?」
「ははは。なんだか続々と……どうぞ」
「?ありがと。お邪魔しますよー」

大学での友人同士である彼ら、男四人組は和気藹々と雑談に耽った。仲の良い大学生グループだ。
だが、彼らの和やかな雰囲気とは裏腹に、部屋の空気は、刻一刻と……。

772 名前:優麗な女達 :2006/06/04(日) 23:34:18 ID:p5pDVscy0
「ひ……っっっ!?!?!?あ、あの……あの人の……おっ、お友達……守霊、つ、憑いて……る……」
「ここにも……幽霊なぞ……おったのか……」
「ひ……み、みつ……みつ、見つか……た……。こ、こわっ……怖……ぃ……」
「随分とまぁ若そうな幽霊だの。これ、お前、端っこにうずくまっておらんで挨拶くらいせんか」
「ひ、はっ……は……ぃ……。こ……この、部屋……に、憑いて、ます……まっ……まだっ……さっ、さん、30年、です……」
「30年、か。それは若……。ふむ、幽霊に憑かれた男ばかり集まってきたか」
「ひ、へ………………」
「右那、私達よりも古臭い霊がいらっしゃるわ。ふふっ」
「左那、本当ね。珍しいわ。こんなに古惚けた霊は。ふふふっ」
「……小娘が無礼な口を」
「やっぱり嫌な予感があたった。幽霊がうじゃうじゃいる。わたしと一緒で良かった。変なのがあの人にへばり付いたら大変。どうせ、ごうごうごうごう潰しちゃうだけなんだけど」
「……………………た、たす、助け……て……」
「高々数百年如きで、そっちは百年位か、偉そうな小娘共だの。蹴散らされたいか」
「左那、あれを見て。着物に蜘蛛の糸が張っていそうな柄だわ。せんすが無いわ。せんすが」
「右那!いつの間に米語を学んだの?あら、そちらの古人の方、亜米利加は御存知?」
「存在感が薄いのが一人。とんでもなく古そうで偉そうなのが一人。あとは意地の悪そうな双子で二人、か。心配なかったみたい。勝った」
「今、なに?勝った?何ぞ言ったか?そこの洋装の女。消すぞ」
「右那、血の気が薄い女は脳味噌に血が通っていないみたいだわ」
「左那、本当ね。可哀相だわ。ここで成仏させてあげましょうね」
「…………………ひっ……ひぁっ……!!??」


773 名前:二人 :2006/06/04(日) 23:35:06 ID:p5pDVscy0
「あ、れ?そう言えば、なんで部屋が滅茶苦茶なんだろう……?」
ご、ごめ…………さい……。あ、あた、あたし……じゃ、と、とめ……られ……なか、た……。
「え?」
…………………………。
「あ、声……。姿も、見えてきましたね」
ぁ……。ほ、ほんと……だ……。
「やっぱり、触れられると、嬉しいですね」
ん、ん……う、ん…………。あっ……あた、あたし、も……嬉し……。

「二人だと、やっぱりいいですね。寂しくなくて」

……っ…………んっ…………。

「大丈夫ですよ。ずっと一緒ですから。ね?」

…………っ、うん………………。


774 名前:守霊 :2006/06/04(日) 23:35:49 ID:p5pDVscy0
………………。
「うぅ、帰宅すればオカルト現象が待っているぜ……」
………………。
「げ、昼間の血文字消してないぞ。とほー。帰ったらお掃除か」

今日蹴散らした小娘共は、憑く相手と、話したり触れ合ったり出来るのか……。
私は……姿も見えず、言葉も交わせず、ただ、見守るだけ、か……。

寂し――

「あ、胡桃餅買って帰ろう」

――間抜け面しおって。

愛い奴。

わたしが、守ってやるからな。


775 名前:解決 :2006/06/04(日) 23:36:31 ID:p5pDVscy0
今日は最高の日だわ、左那。
そうね、右那。最高ね。
「何かあったんですか?」
三人でずっと一緒にいられる方法があったのよ。ね、右那?
ええ、左那。だから、ね。あなたさえ良ければ、ね……その――
「え、本当ですか!?二人といられるなら何だって!」
あ……本当?ふふふっ、嬉しいわ。ね、左那?
ふふっ、良かった。断られたら泣いていたわ。ね、右那?
「断るなんて!そっ、それで、方法とは?」
ふふっ、簡単なのよ。死んでも私達と同じように幽霊になればいいんだわ。
そう、簡単。今日会った、あの、印象の薄い、女――何て言ったかしらね――が言っていたわね。
「女?……いましたか?……でも、死んでからのこと、自分で決められるものなんですか?」

大丈夫。右那はあなたを離しません。
大丈夫。左那もあなたを離しません。


776 名前:日常 :2006/06/04(日) 23:37:17 ID:p5pDVscy0
「ついでだし買い物して帰ろうか」
声を掛けると、鞄の影からすり抜けるように霞が這い出てくる。そうしてあっという間に沙紀さん登場。
「あなたは大丈夫?石、重いでしょう?」
「平気平気」
強がる。沙紀さんの前だ。
「買い物袋も持てるかなー?」
沙紀さんはいたずらっぽく微笑む。
「え!それも僕なの!?」
「ふふっ、うそ」
真っ白な顔が夕日に照らされて、なんとも言えないノスタルジックな心持ち。
「腕、組んで帰ろうね」
長い髪を一撫でして、僕に囁く。

うん。腕組んで、帰ろう。
僕らの家まで。