跡取り5

714 名前:跡取り 2−1 :2006/05/31(水) 23:53:11 ID:AwnBPYj+0
 夕暮れが迫る一時、晩餐にもまだ間がある
この時間帯は、姉は独り書庫に向かっていた。
 僕を教えるため、姉は学んでいるのだろう。
 一度、すべて自分で理解し咀嚼しないと気がすまない。
でなければ教える事はできない。生前そういっていた。

僕はこの一人の時間、木剣を用いる剣術から派生した
竹刀という竹を編み、防具をつけて行う剣道を始めていた。
 実戦的な剣術を学ぼうかと思ったのだが、時代にそぐわない
し、危険だからと姉は断固反対したからだ。
 精神修養ならば剣道でも学べる。剣道にも剣術と同様に型が
あり、僕はそれを今は学んでいる。

「・・・つ」
肉刺ができ、思うようにいかない。竹刀は柄に革が巻いてあり、
比較的持ちやすいはずなのだが・・・

「・・・握り方が固いわ」
「あっ・・・」

振り向くと、壁にもたれて姉が立っていた。

715 名前:跡取り 2−2 :2006/05/31(水) 23:53:44 ID:AwnBPYj+0
「姉さん・・・」
一人素振りをしていたのを見られたのは、何か
気恥ずかしいものがあった。

「続けて。いつもしているようにしてごらんなさい」
「はい」

正眼に構え、振り抜く。足の運びと腕の振りは力を入れすぎず
「・・・もう一度。私を意識しないで。いつもしているように」
「・・・はい」
正直、肉刺が痛くて握りきれなかったがもう一振りした。
黙って見ていたままの姉が、ついと近寄り手を取った。

「駄目よ。そんなに強く握ったら痛いでしょう?ほら・・・手が」
「はい・・・」
「もっと柔らかく掴まないと。手首にも頼りすぎているわ。肩の力と腕は
よく抜けているわね。腰はまだまだ」

姉は薙刀の有段者だった。僕は生前見たことはなかったが、舞うように
振るったという。
「いい?こう握ってごらんなさい」
「あ・・・ぅ」
「力を抜いて。掌から包むように。そうよ」

夕暮れが辺りを赤く染め上げていた。