別れの日

432 名前:@ :2006/05/10(水) 16:35:28 ID:wvAR5qcG0
初です。
長くなってしまいましたが、
暇のある方は読んでいただけるとうれしいです。


彼女が死んだ。
それは、僕と彼女が付き合い始めて、半年が経とうとしていた頃だった。
彼女はいつも、少し不機嫌そうな顔をして、あまり感情も表に表さない人だった。
だから、いつも、僕の一方通行な気がしていた。
何故彼女が僕の隣にいてくれるのか不思議だった。
それでも、僕たちはそれなりにはうまくいっていたと思う。
その日も、二人でショッピングに出かけていた。
そして、その帰り道、駅で僕と別れた後、彼女は自宅の前で車に轢かれた。
僕は、初めそれを聞いたとき、ちっとも悲しくは無かった。まったく信じなかったからだ。
でも、仕方ないだろ?
なにせ、そのことを僕に教えたのは、彼女本人だったのだから。

433 名前:A :2006/05/10(水) 16:36:31 ID:wvAR5qcG0
彼女の葬式も無事に終わった。にもかかわらず、彼女は僕の前にいる。
どうも、彼女は幽霊になったらしい。
僕は、ベッドに寝転がりながら、その斜め上でふわふわと浮いて、本を読んでいる彼女を見る。
彼女は、最期のデートの時と同じ白いワンピースの格好で、右手の薬指には指輪。
僕がプレゼントしたものだ。
これをプレゼントしたとき、彼女が言った感想は一言だけ。
「微妙」
僕は、彼女が笑顔で大喜びする姿を期待していただけに、とても落ち込んだものだったが、
死んで幽霊になった今もつけているところを見ると、
実はとても気に入っていてくれたのかもしれない。
そう思うと、自然、顔がニヤける。
視線に気づいたのか、彼女が「何?」と僕のほうを見る。
「んー、別に」
「一人でニヤニヤしてて不気味なんですけど」
「・・・・ごめんなさい」
彼女は、幽霊になっても彼女は、変わらなかった。

434 名前:B :2006/05/10(水) 16:37:21 ID:wvAR5qcG0
「そういえば、何で、成仏とかしないわけ?」
ふと、思いついて尋ねてみる。
「何?早く居なくなれってこと?」
彼女は、面倒くさそうに視線を本に向けながら、言う。
「いや、そうじゃなくてさ、何が心残りなのかなって思って」
すると、彼女は、少しだけ視線を上げ、またすぐに本に戻し
「・・・あんたには、教えない」とだけ不機嫌そうに言った。
言ってから、僕は、なんて馬鹿なことを言ったのだろうと思った。
たった、十六歳で、彼女は亡くなったのだ。心の残りなど、それこそ、山のようにあっただろう。
「もしかして、僕と離れたくないとか?」
僕は、すこし茶化したくてそんなことを言ってみた。
「・・・・」
反応がない。
ハズしたかな?そう思っていると、彼女はこちらを向き、少し馬鹿にしたような顔で、
「馬鹿じゃない?」と言った。
その後、僕らの会話は、他の雑談へとそれて行った。
彼女も、僕が話しかけるので、ついには諦めて本を置き、
”しょうがないな”という顔で話し相手になってくれた。
第三者が見れば、僕は怪しい独り言を言っているようにしか見えないだろう。
でも、僕は、不謹慎だろうが、彼女が自分にしか見えないので
、彼女を独占しているようで少し嬉しく、また、一緒に居られるのが楽しかった。
僕らは、そうやってだらだらと日常を過ごした。
彼女の体が、日に日に薄くなっていってることに、気づかないフリをしながら。

435 名前:C :2006/05/10(水) 16:38:34 ID:wvAR5qcG0
それから、一ヶ月が過ぎた。
もはや、彼女の存在は、意識しなければ見ることもできないほどに、希薄になっていた。
そんな中、彼女が「今日、大事な話があるから」と僕を学校の屋上に連れ出した。
そこは、僕らが『友達』ではなくなったところ。
幸い、周りには僕ら以外人は、いない。
グラウンドを眺めていた彼女が、唐突に口を開いた。
「なんか、時間が来ちゃったみたい」
僕の心臓が、一つ飛ばしでなった。
それ以上聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない・・・
彼女はあっさりと続ける。
「だから、もう、お別れ」
本当にあっさりと言った。
「・・・・」僕は、何かをいおうと口を開くが、酸欠の金魚みたいに口をパクパクするだけで、
言葉が出てこない。
「でね、最期に、聞いてほしいことがあるの。いい?」
僕は、力なくうなずく。
すると、彼女は、ここで初めて、ためらうようにうつむき、口ごもる。
しかし、やがて意を決したように顔を上げ、すうっと、息を吸って、言った。
「あ、あたしは、あなたが大好きですっ!」
そして、彼女は見たこともないほどに顔を真っ赤にしてうつむく。


436 名前:D :2006/05/10(水) 16:40:54 ID:wvAR5qcG0
「ち、ちゃんと・・・言ったこと・・なかったから・・それが・・心残・・・りで・・すごく
伝えたくて・・・・」
彼女は、その体と同じく今にも消え入りそうな声でつぶやく。
そんな、初めて見せる彼女の姿を見ながら、僕は、何とか涙をこらえ言葉を伝えようとする。
「僕も・・大好きだよ」
すると、彼女は、まだ赤いままの頬で、今まで見たこともないほどのとびきりの笑顔で言った。
「知ってるよ、バーカ!」
そして、そのままの笑顔で、すうっと、彼女は消えた。

「せっかちだね、別れのキスはなしかよ」
僕は、抑えれそうもない涙をごまかすようにつぶやいた。
 
    ふと、唇にやわらかい感触

僕は、泣きながら「まだ、いたんだ?」と声をかけるが、もう返事はない。
(そういえば、彼女からキスしてくれたのってこれが初めてだなあ)
そう思いながら、僕は天を仰ぐ。涙でにじむ空は、ムカつく位晴れていた。
晴れ渡る空、彼女のいない屋上、残された僕。
不器用で、感情を伝えることが苦手だった彼女。
最期に残した唇の感触は
   とても暖かく、やさしかった。