ツンデ霊女学院

355 名前:本当にあった怖い名無し :2006/05/05(金) 14:04:12 ID:Lp79s+RA0
ツンデ霊女学院とかいうところに編入することになった。
なぜだか知らないけど、特待生扱いだという。
おかしいなあ、とは思ったけど、学校なんて久しぶりだし、誘いに乗ってみることにした。

初日。
正直、どきどきした。どう見てもエビフライだとしか思えない理事長先生に迎えられた
ときは、思わず突っ込みそうになって慌てた。うん、いろいろあるよね、人って。

教室。
クラスのみんなの視線が突き刺さる。
やっぱりこうゆうの苦手。ずっと一人でいたわけだし、緊張する。
理事長先生、はやいとこ紹介終わらしてくれないかな。

「はい、みなさん。こちらが特待生の『ガードレールの幽霊』さんです。非常に素晴らしい
ツンデレをお持ちの方ですから、よく見習ってください」

……私ってそんな通り名だったんだ。
ていうかなに? つんでれって。うわー、あきらかにもうみんなの視線がちがうぅ…
私なにもしてないよ? なんの才能もないよ? だれかとまちがってない?

自分の席。
痛いほどの視線をかいくぐり、萎縮しながらそこを見ると。
――ガビョウだ。
イスに、めいっぱいの。
思わず隣の席の子を見てしまう。澄ましてまえを向いてるけど、こちらを意識してるのが
わかりやすいほど伝わってくる。
初日からこれかあ。滅入るなあ。でも。

356 名前:本当にあった怖い名無し :2006/05/05(金) 14:05:15 ID:Lp79s+RA0
私はふつうにそのガビョウだらけのイスに腰掛けた。
隣の子が、もの凄い勢いでこっちを見る。
そんな驚かれてもね。幽霊だし。気付こうよ。お互い気まずいでしょ?
よろしくね、微笑みかけると、
「ふ、ふん! な、なによ、なれなれしい! 勝手によろしくすればいいでしょ!」
だって。
なんだろうこの空気。

授業。
「はい、では今回はツンデレノミコンの666ページからでしたね。『ガードレール』さんは
隣の人に教科書を見せてもらってくださいね」
隣の人って、この人だよね。完全にそっぽ向かれてるんだけど。どうしよう。
「あ、あの……」
「み、見たければ見ればいいでしょっ!?」
私が言い終わらないうちに、顔は反対側を向いたままでガタガタと机を寄せてくる。
あぁ…なんだろうこの空気。

二時間目。
「……私メリーさん。今あなたの後ろにいるの」
うん、わかってる。
「……わ、私メリーさん…っい、いま…あなたの…っ…う…うぇえ…」
わかってるんだけど、理事長先生から振り向いちゃいけないって言われてるから。
「わ…わた…し…ぐすっ…メリー……」
ごめんね。なにこの学校。

357 名前:本当にあった怖い名無し :2006/05/05(金) 14:06:11 ID:Lp79s+RA0
三時間目。
さすがに二時間ずっと寄り添っていたので、隣の子ともだいぶうちとけてきた。おかしな
態度も慣れればカワイイ。ちょっとしたムダ話をしていると、先生からの指名があった。
「この問題を…ソウね、ガードレールさんに」
うわ、難しそう…って。ガードレールって私か! か、かわいくないあだ名ついちゃったな。
えーと…数学? 家庭科なら得意なんだけど。

『nが2より大きい自然数であれば、X~+Y~=Z~ を満たす自然数X、Y、Zは存在しないことを
証明せよ』

わかるかっ! でも周りの視線が凄い。「特待生」に対する期待と好奇の目。みんなこんな
問題やってるの? かなり私、場違いみたい。すごく恥ずかしい。
もうみんな見ないで。ああ、でもなにか答えなきゃ。

「わ、わかるわけないでしょ…!」
あれ、なんか半ギレみたいになっちゃった。どうしよう…どうしよう…!

教室のどこからか、嘲笑がさざめいた。
私はうつむいて立ち尽くした。このまま逃げちゃおう。どうせなにかの間違いで入校したん
だから。そのつもりで、走り出そうとしたそのとき。

「――Exellent!」
先生が手を叩く。

「え?」
私も含め、クラス全員が意表をつかれたと思う。いったいなにが?
先生は、人差し指をびゅんびゅん振りつつ、嬉しそうに説明した。

358 名前:本当にあった怖い名無し :2006/05/05(金) 14:07:13 ID:Lp79s+RA0
「ワカラナーイ。ソウ、みんなのまえでワカラナイと答えるコトは、恥ずかしいコト。
デモー、彼女はソレでも強気の態度を崩さナイ。さらに照れの滲ませ方もカンペキデース!
コレがー、ツンデレデース! 萌えデース!コノ問題はー、過去350年間、正解が出なかった
のデス。サスガは噂のガードレールの幽霊さんデース! 萌え萌えデース!!」

先生の賞賛は続く。
そして、割れんばかりの拍手がみんなから贈られた。
私は照れ隠しに頭を掻くしかなかった。
「わかんないって言っただけなのにね」
なんとなく、ごまかすように隣の子に話しかけると、彼女は慌てたそぶりで拍手を止める。

「あ、い、いえ、これは、ちが、ちがうの!つられたから!みんなに!凄いなんて、思って
……は、ちょっとだけ、いるけど! かんちがいしないでよね!」
「う、うん」

隣の子は真っ赤になった顔を「もぅおー」とか言いながら、自分でばしばし叩いている。
意味不明の言動だけど、なんだろう凄くカワイイ。
ああ、わかってきた。この空気が。

350年間、数多のツンデ霊学生たちの挑戦を退けてきた難問を解いた実績は凄まじく、翌日
からは、尊敬の念と、なにやらわからないオーラをまとった女学生に囲まれる日々だった。


それからの私の活躍や、私をめぐる争い等を記すには、余白が足りなさすぎるので省く。
ひとつだけ私の現況を書き記しておくと、今の私の通り名は「御姉様」だ。
そしていまだにこの学院の存在意義がわかんない。