恋敵だった幼馴染

162 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 01:47:03 ID:N7Mq5vJK0
「マサミ〜マコト〜、早く、早く〜!」
遠くでカナコが俺たちを呼んでいる。
「おう、わりぃわりぃ。おら、マコト早く行くぞ。」
「ったくよ〜。何で俺まで一緒じゃなきゃダメなんだよ。
 そんなんで、デートって言えるのかぁ?」
いつもの様に二人のデートに付き合わされる。
だが、元気なカナコを見たのはその日が最後だった。
その後カナコは病気で倒れ、あっさりこの世を去った。
「マサミのことお願いね・・・」
それが彼女の遺言になった。

俺とマサミとカナコはいわゆる幼馴染ってヤツだ。
親同士が知り合いだった事もあり、俺の記憶の中にはいつも二人がいた。
そして思春期を向かえ、初恋に落ちる。
いつも3人一緒にいたのだ、相手は決まっている。
だが、マサミとカナコも恋に落ちていた。
「マコト、わりぃ。俺、本気でカナコの事好きなんだ。
 応援・・・してくれるか?」
「マコト、ごめん・・・ね。私・・・ね、マサミのことが好き・・・みたい・・・なの。
 応援・・・してくれたら・・・嬉しいな。」
別々の日に同じ内容を聞かされ、謝られる。
俺の初恋はこれで終わった。

163 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 01:48:22 ID:N7Mq5vJK0
カナコの葬式が終わり部屋で呆ける。
不思議と涙は出てこなかった。たぶん、まだ信じられないからだと思う。
「はぁ。」
この日、何度目かの溜息をつく。
「ちょっとぉ!何、ボケ〜ッとしてるのよ!」
「わっ。」
突然カナコの怒鳴り声が聞こえた。
「わっ、じゃ無いわよ!なんで部屋でボケッとしてるのかって聞いてるの!
 私言ったよね。マサミのことお願いって。」
「なんで・・・ってゆうか、ホントに・・・カナコ?」
「そうよ!何、もう私の声忘れたの?薄情ねぇ。」
突然の事態に驚き、辺りを見回すと、
窓の傍でヨヨヨっと泣き崩れる真似をする、カナコが浮かんでいた。
「・・・幽霊ってやつ・・・?」
「そうみたいね。死んでまで、あなた達の事が心配だったなんて・・・
 自分でも驚きだわ。」
「そ、そうか・・・。でも、あなた達じゃなくてマサミが・・・だろ?」
「そうね。でも、マサミを助けるにはマコトの力が必要だもの。」
「俺の・・・力?幼馴染パワーってヤツ?」
「何それ?そんな訳の分からない物あるわけ無いでしょ。」
「じゃあ、なんだよ。」
「そんなの私にも分からない。でも、マコトにはマサミの傍にいて欲しいの!」
「今の俺じゃ、何も・・・してやれないよ。」
「出来なくても、いるの!」
「なんで、俺・・・なんだよ。もっと、他にいるだろ?」

164 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 01:49:45 ID:N7Mq5vJK0
瞬間、部屋の空気が変わる。凍りつくような冷気が辺りを包む。
「本気でそんなこと言ってるの?」
感情の消えた声で訊いてくる。
ヤバイ、本気で怒っている。
「あ、ああ。ほ、本気。」
「マサミが、傍から居なくなっちゃうかも知れないんだよ?」
「お、俺の傍に居れば、つ、辛い事も思い出しちまう。
 しょ、しょうがない・・・よ。」
「死んじゃうかもしれないんだよ。それでも良いの?」
「そ、それは・・・。」
無いとは言い切れなかった。
「好きなんでしょ?・・・マサミのこと。」
「えっ?」

それは知られてはいけない感情。
マサミとカナコだけには知られたくなかった、自分の心の奥に封じ込めた感情。

カナコに相談された時にあきらめた初恋。

165 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 01:51:23 ID:N7Mq5vJK0
「もう、素直になりなよ。ねっ・・・マコちゃん。」
「えっ?・・・カナ・・・ちゃん。」
久しぶりに呼びあう、その名前。
「もう、男の子の真似なんてしなくても良いの。」
「ち、違う・・・よ。こ、これは好きで・・・してるだけ・・・で。」
「その格好なら、友達としてでも傍に居られると思ってた?」
「そ、そんな訳じゃない・・・よ。」
女性なのに男性の様に振舞う・・・。
恋人になれないなら、せめて友達として・・・
女友達よりずっと本音を言ってもらえる、男友達として・・・
それは、とても歪な変身願望・・・。

「ずっと、好きだったんでしょ?」
「う、うん。」
「だったら、お願いっ!私は死んじゃって・・・もう、何も出来ない。
 助けてあげられるのは、マコちゃんだけなの。」
「そ、そんな事っ。」
「マサミの所に行ってあげて・・・きっと落ち込んでる。
 これ以上、私のせいでマサミを苦しませたくないの。」
「で、でも・・・」
「ごめんね。私・・・我侭だよね。
 でも・・・ね、マサミを助けられるのはマコちゃんだけなの。
 マコちゃんなら、きっとマサミを幸せに出来ると思うの・・・。」
「カナちゃん・・・」 
「もう、これ以上私の事で苦しんで欲しくないの・・・。
 だから、だからっお願いっ!せめて残った二人で・・・幸せになって欲しいの。」
「・・・・・・」
「マコちゃん・・・お願い・・・マサミの傍に・・・行ってあげて・・・。
 私の・・・事は・・・忘れて・・・幸せに・・・なって。
 最後まで・・・我侭ばっかりで・・・ごめん・・・ね。」
「カナ・・・ちゃん・・・?」

166 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 01:52:59 ID:N7Mq5vJK0
もう、周囲にカナちゃんの気配は無い。
私にマサミを託す事で安心したのか・・・

「・・・カナちゃん・・・勝手すぎるよ・・・。」
そこで始めて涙がこぼれた。零れ始めた涙は止まらなかった。


泣き止めばきっと私は、まだ泣けずに苦しんでいる彼の元に走るだろう。
そして、また泣くだろう・・・
恋敵だった幼馴染を思い出して・・・