待ちぼうけ

147 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/24(月) 20:35:51 ID:HgmnS7eZ0
俺は一体どこで間違えてしまったんだろう・・・

「ず・・・ずっと、俺の傍にいて欲しい。」
「いっ言われなくても、あなたが死ぬまで傍にいるわよっ。」
「う、うん。そうだよね。俺に取り憑いてるんだもんね・・・。
 じゃあ、少しでも長く一緒にいられる様に頑張るから。」
「ふん。せっ精々頑張ってみなさい。
 別に私が一緒にいたいとか、そんなんじゃないんだから。」
それからの数ヶ月は本当に楽しかった。
不器用な俺と素直じゃない彼女。喧嘩もしょっちゅうした。
でも仲直りできると嬉しくて一緒に泣いて笑いあった。

変化はちょっとした事から始まった。
軽い立ちくらみのような眩暈
「あ、あれ?なんか・・・変・・・だ。」
「ちょ、ちょっと急にどうしたのよ!」
「う、うん。ちょっと力が入らなかった。でも、もう大丈夫。」
「そう。なら良いんだけど・・・」
「ほらほら、そんな心配そうな顔しないで。」
「な、何よ別に心配なんてしてないんだからっ。」

148 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/24(月) 20:37:17 ID:HgmnS7eZ0
しかし、その後も急に力が入らなくなったり、ぼ〜っとしてしまうことが多くなり、
とうとう、寝たきりの生活になってしまった。

「ご、ごめんなさい。私が取り憑いてるからこうなっちゃうんだよね。」
「良いんだよ。・・・いつか・・・こうなる事は・・・分かってたんだから。」
「で、でも・・・辛くないの?死んじゃうん・・・だよ。怖く・・・ないの?」
今にも泣き出しそうな声で訊いてくる。
泣いているのは彼女には似合わない・・・笑っていて欲しい・・・少しでも安心させないと
上手く働かない頭で必死に考える。
「・・・・・・う〜ん、死ぬのは・・・やっぱり怖い・・・かな。でも・・・君と同じになる・・・だけだし。
 きっと、今と・・・そんなに・・・変わらない・・・よ。」
「ばっ馬鹿じゃないのっ!私の傍にいられるから、死んでも良いって言うのっ!」
「出来れば、・・・生きたままで・・・傍に居たいけどけど・・・ね。
 多分、それは・・・もう・・・無理・・・みたい・・・だから。」
本当は、もう会話をするのも辛い。
言葉を発するだけで、体の中から何かかがドンドン失われていく気がする。
「なっ何言ってるのよっ!で、でも・・・」
そこから急に会話が途切れる。
彼女は一人で何かを考え始めているようだ。
そして、俺はそんな彼女をただ、見続ける事しか出来なかった。

149 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/24(月) 20:38:13 ID:HgmnS7eZ0
どれくらいの時間がたっただろう・・・
周りもよく見えなくなってきた。
「そう、そうよ。私があなたから離れればいいのよ。」
「・・・えっ?」
「良い?あなたがここまで弱ってるのは、残念だけど私が取り憑いているから。」
「・・・まぁ、・・・そう・・・だね。」
「で、私はここまで弱ったあなたには興味が無い。」
「・・・興味・・・って。・・・酷い・・・なぁ。」
「だから、私は今から別の気に入ったヤツに取り憑くの。
 で、そいつが弱った頃にはあなたは元気になってるだろうから・・・。」
「そ・・・そんな・・・上手く・・・いく・・・かな?」
「上手くいくの!良い、ホントは殺すところなんだけど・・・
 望まれて死なれたんじゃ悔しいじゃない!」
「は・・・ははは。」
「笑う所じゃない!
 良い?今度来るときまで、・・・絶対死にたくないって思うようになってるのよ!」
「・・・う、うん。」
「別に、あなたのために離れるんじゃないのよ。
 こ、このままじゃ私が悔しいから離れるんだからっ。」
「・・・あ・・・ああ。・・・・んっ?」
唇に何かが触れたような感触と、頬に冷たい雫。
「じゃあ・・・ね。結構・・・この部屋・・・好きだったわ。」
そう言うと彼女の気配が消えた。

少し経つと意識がはっきりとしてきた。
「ん、・・・少しは・・・調子良く・・・なったかな?」
ずっと寝たきりで固まっていた関節がほぐれていくのが分かる。
自分の体に羽が生えたかのように軽くなっていく。
これなら、その内動けるようになるだろう。
自然と笑みがこぼれていた。
「帰って・・・きたら、何て言ってやろう・・・かな。」

150 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/24(月) 20:38:56 ID:HgmnS7eZ0
しかし、調子が良くなったのは一時的なものだった。
立ち上がろうとした瞬間、体の中で何かが壊れた。
その後ドンドン体の感覚はなくなり、意識も朦朧としていった。
そして数時間後、俺はあっけなく死んだ。
安易に動こうとした俺が悪かったのか
彼女の決断が遅かった為か・・・
今となっては、もうどうでも良い事だ。

・・・あれからどれだけ経っただろうか・・・
今も俺はこの部屋にいる。
来る筈の無い彼女を待ち続けている。