いつか咲く桜

7 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:26:11 ID:4FQ9ebKw0
「この桜の下には少女が眠ってる・・・」
そう教えてくれたのは誰だったろう?

その少女とは、今私の横で嬉しそうに桜を眺めている
この少女のことなのだろう。

出会ったのはいつだったか・・・
たしか、この家に越して間もない頃だったと思う。
裏庭に大きな桜のあるこの家は、近所でも評判の幽霊屋敷だった。
祖父が死に、誰も住んでいないはずの家から明かりが見えたり
物音がしたりするのだ。
そんな噂が立つのも時間の問題だったのだろう。
私が越してくる頃には、誰も近寄らないさびしい家だった。

元々、心霊現象など信じない私は噂を気にせず引っ越す事にしたのだが、
家に入ったとたん、タタタタタッ何かが走り抜ける音がした。
「本当だった・・・のか?」
しばらく呆然としてしまったが、それ以降は特に何も起こらなかった。
何日かは荷解きをしたり、家の掃除、片付けで過ぎていった。
「あの桜まだあるかな?」
ふと、そんなことが気になり裏庭へ向かった。
そこにあの桜があった。
しかし、昔の記憶と違い弱々しくそこに有るだけの木だった。

8 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:26:42 ID:4FQ9ebKw0
「あれ?こんな小さかった・・・」
軽い目眩を覚える。
庭に見た事の無い少女が立っていた
「君は誰かな?どうしてここに居るの?」
少女は答えないず、ただ寂しそうに桜を見つめるだけ。
「その木はもっと暖かくならないと咲かないよ。
 お家の人が心配するから、桜が咲いたら一緒においで。」
「きっと、もう咲かない・・・。」
そう首を振って答えると、どこかへ走って行ってしまった。
「えっ、それはどういう・・・」
私の問いかけは少女に届かなかった。

その夜、初めて金縛りにあった。
ただ、そのときに感じたのは「苦しい」というよりも「寂しい」
そんな感情だった。

9 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:28:02 ID:4FQ9ebKw0
「もう咲かない・・・か」
咲いたらあの少女は喜んでくれるだろうか。
それは解らない。
ただ、この桜が咲いているのを私も見たいと思った。
「まずは、掃除でもするか」
手始めに雑草をむしる。
「はぁはぁ。」
日暮れまでかかったが4分の1も終わらない。
「ふぅ、これは大変だ。しばらくは毎日草むしりだな。」
「よ・・な・・を・・な。」
「ん?」
空耳が聞こえたようだ。
その晩も金縛りにあった。感じるのは「寂しさ」だけ
耐え切れず目を開ける。
と、そこに何かが居た。
「よけ・・こ・・・るな!」
「えっ?」
「よけい・・・をするな!」
「よけい・・・?」
「余計なことをするな!」
「ん、よけいな事って何の事かな?」
不思議と恐怖心は無く疑問をそのまま口にする。
「余計なことをするな!」
それしか言って来ない。
ただ、声には「怒り」より先ほどと同じ「寂しさ」を感じた。
しばらく考え
「桜の事・・・・だよね?」
ザワッ
訊いた瞬間、部屋の空気が震え気配が消えた。
「ふぅ、どうしたら良いものか。」
呟くがやはり答えは返ってこない。

12 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:50:08 ID:4FQ9ebKw0
次の日も朝から庭の草むしりをする。
時々、庭の隅から視線を感じ顔を上げるが当然誰もいなかった。
「ふぅ、今日はここまでかな。」
まだ半分も終わってなかったが、
日暮れ近くになり手を休めると、見慣れない石が目に付いた。
不思議に思い手を近づけると、
ビリッ!
電気が流れたように痺れた。
「あ!っつぅ〜〜っ。」
声にならない悲鳴を上げる。
静電気・・・な訳はない。
気を取り直して再び近づくともう何も起こらなかった。
「お墓・・・かな?」
根拠は何も無いがそう感じた。
細長い少し大きめの石。
「庭がきれいになったら、ちゃんとしてあげますので。」
謝るように呟きそっと石を置いた。
その夜も金縛りにあった。
「・・・れろ。」
「ん?」
「わ・・ろ。」
「われろ・・・?」
「忘れろ。」
「忘れろ・・・ね。」

13 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:50:44 ID:4FQ9ebKw0
昨日と同じ気配と声
思い当たるのは・・・庭で見つけた「お墓」しかない。
「どうして忘れないといけないのかな?」
「忘れろ。」
「あれは・・・君のお墓・・・でしょ?」
ビクッ
気配が震えたと思うと、激しい揺れが襲ってきた。
「うわっ!」
声を上げたとたん、すぐに揺れがおさまった。
気配はもう無い。
「・・・桜とお墓・・・・か。」
何かが頭に引っかかるが思い出せなかった。


14 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:51:25 ID:4FQ9ebKw0
昨日と同じように草むしりに精を出す。
だが頭の中では「桜とお墓」がずっと浮かんでは消えていった。
昨日のように、視線を感じたりする事も無く
夕暮れになった。
申し越しで草むしりも終わる。
その夜も金縛りにあうが気配は感じない。
体を覆うとてつもない「寂しさ」
「う、ううっ。」
「こ、こんな中に・・・・君は・・・居る・・・のか?」
知らずうめき声や呟きがもれる。
押し潰されそうになりながらじっと耐える。
(少女・・・・桜・・・お墓・・・)
いつの間にか、庭で会った少女の事も思い浮かんでいた。
そのまま意識を失った。

15 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:52:07 ID:4FQ9ebKw0
また庭の草むしりに精を出す。
自分がここまで桜に執着していたか、疑問に感じたが
もくもくと草むしりをする。
夕暮れが近づく頃何とか草むしりも終わった。
「誰かから聞いたはずなんだけど・・・」
父親なら何か知っているかと思い電話をする。
「父さん、この家の桜ってなにか言い伝えみたいなの無かったっけ?」
「どうした急に?幽霊でも出たか?」
笑いながらそんなことを訊いてくる。
「ん、そんなことは無いんだけど・・・
 小さい頃、誰かから聞いたような気がしてさ。」
「あ〜、とたしか、桜の下に少女が眠る・・・ってヤツか?」
「あっ、それそれ。ホントなのそれって?」
「さぁ〜てなぁ。俺も聞いただけだしなぁ。」
「そうなんだ。うん。分かった。」
「それよりそっちはどうなんだ?元気でやってるか?」
その後、他愛も無い話をして電話を切った。
「桜の下に眠る少女・・・・か。」
呟いたとたんあの気配が近づいてくる
「出て行け。」「余計なことをするな。」「忘れろ。」
色々な言葉が降りかかってくる。
「くっ。」
いつもと同じ「寂しさ」の重圧。

16 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:53:21 ID:4FQ9ebKw0
「・・・どう・・・して?」
「一人にして。」「誰も来ないで。」 
「どうして?そんな寂しそうなのに?」
「イヤっ!」「来ないで!」「一人にして。」
口調が少女のものに変わる。
「君は・・・一体・・・誰?」
「忘れて。」「出て行って。」「一人に・・・しないで・・・。」
うっすらと姿が浮かぶ。
「・・・泣いて・・・いるのかい?」
「出て行って。」「忘れ・・・ないで。」「一人に・・・・しないで。」
泣きながら少女は言葉と重圧をかけてくる。
言っている事も滅茶苦茶だ。
家が揺れる。堪らずひざを付く。
「出て行って。」「忘れないで。」「一人にしないで!」
「出て行かないで!」「忘れないで!」「一人にしないで!」
「・・・傍に・・・いる・・・よ。」
何とか声に出す。
悲しみに包まれる少女を見ていられなかった。
「イヤだ!」「寂しい!」「一人にしないで!」
揺れがおさまってくる。
「グスッ、グスッ」
揺れがおさまり。目の前には泣き崩れる少女。
「傍にいるから。そんなに泣かないで。」
やさしく声をかける。

17 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:53:57 ID:4FQ9ebKw0
グスッ、・・・イヤ・・・だ。もう、桜咲かないもん。」
「大丈夫、きっと咲くから。」
「グスッ、グスッ・・・ホント・・・・に?」
「うん。本当だよ。今年はダメでも。来年。」
「えっ・・・?」
「そうじゃなくても、いつかきっと。きっと咲くから。」
「・・・いつか・・・きっと?」
「そう、いつかきっと咲くから。それまで一緒に待とう。 
 ねっ。」
「・・・いつか・・・きっと・・・咲く?」
「そうだよ。これからちゃんと手入れしてあげて。
 元気になればきっと咲くから。」
「そう・・・かな?また、咲く・・・かな?」
「ああ、きっと咲くよ。だから、それまで一緒に待と。」
「・・・うん。・・・咲くまで、一緒に待つ。」
少女は泣き止み、腫れぼったい目で笑顔を向けてくれた。


18 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/19(水) 23:54:47 ID:4FQ9ebKw0
数年後
しばらくは桜が咲くことは無かった。
私は園芸や樹木の本を読み漁り、できる限りのことをした。
そして今年やっと花が開いた。
「すごいねぇ。ほんとに咲いたねぇ。きれいだねぇ。」
「ちゃんと咲いたでしょ。信じて、やれる事をやって、
 待ってればきっと叶うから。」
「そうだねぇ。頑張ったもんねぇ。良かったねぇ。」
もう少女は泣かないですむ。
桜が咲いたことより、その事が私は嬉しかった。