二つの影

945 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 12:26:59 ID:NqQWZJDD0
「またあいつだ」


最近、帰り道の交番の前に警官がいつもつっ立ってる。
それだけならどーでもいいんだけど、これが毎回絡んでくるからマジキショイのなんのって。
この前なんてこっちはオールで疲れてんのに
「おい」
「若い女の子がこんな時間まで何してんだ。さっさと帰りなさい!」
とか言って絡んでくるし…。町の駐在さんでも気取ってんのか?今時流行んねっつーの!


「今日もこんな時間に……。いい加減にしなさい!」
「毎回毎回、いちいちうっせーんだよ!こっちは好きで遊んでんだからほっとけばぁ?
 わかった〜♪ 援交でも狙ってんでしょ?」
「そういうはしたない言葉遣いはやめなさい!」
「やめねーよバーカ! いっぺん死ねッ!」
さっきまで威勢のよかった警官の顔が一気に曇るのを感じた。

946 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 12:27:59 ID:NqQWZJDD0
「……」
「…残念だけどもう私は死んでるから二度も死ねないんだよ…。」
「はぁ?」
「やっぱり覚えてないんだね…。」
「マジで何言ってんの?」
「いや今のは忘れてくれ。」

いつも暗がりでよく見えなかったけど、こうまじまじ見るとなぜか見覚えがある。
しかも、最近じゃなくて遠い昔にみた気がする。
「あっ!」
記憶の波が一気に押し寄せてくる。
この人は小さい時に良くしてくれた「交番のおじちゃん」だ。
お母さんとの買い物の途中にいっつもおやつをくれた大好きだった人だ。
確かに急にいなくなっちゃって、お母さんにしつこく理由を聞いたことを思い出す。

「ほんとにあのおじちゃんなの?」
あの交番のおじちゃんはゆっくりと笑顔で頷く。
「あんなにちっちゃくてかわいかった子が本当におっきくなったね。」

947 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 12:28:56 ID:NqQWZJDD0
ギュッ。

いつもは反抗的なギャルで通してる私が懐かしさのあまり思わず抱きついてしまった。
「ん?!」

ちょっと待てよ。
「なんで私おじちゃんにさわれてんの?」
笑顔だったおじちゃんの顔がさっきの何倍も曇る。

「…ずっとそれを君に伝えたかったんだ……。」

「…本当に残念だけど、君も死んでしまったんだよ……。守ってあげられなくて本当にごめん…」

おじちゃんは涙を必死でこらえながらそう伝えてくれた。

信じたくない。でも、昔の記憶となんら変わることのないおじちゃんに
こうして触れてるのがなによりの証拠なんだね。

「おじちゃんは、私が迷子になった時おっきな手をつないでくれて、わたしんちまで送ってくれたよね。」

「ちょっと私の手もおっきくなっちゃったけど、また手をつないでよ♪」



ある交番の前に揺らめいていた二つの影は、夜明けの空に向かってスゥーっと消えていった。