アパートの幽霊・見習い
- 867 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/15(土) 22:21:04 ID:TryF4TQO0
- 「えぇっと、まずはつかみの『うらめしや〜』だったかなぁ?」
内心ドキドキしていた。
あたしが幽霊になってから初めて人を驚かす日が来たんだ。
世の中には物好きな人もいる物で、格安というだけで「でる」って噂のアパートの一室に住もうって人が居る。
「って、そのおかげであたしも嬉しく成っちゃうんだけどね
ああ、そうだ、効果音の練習練習…」
ヒュ〜ドロドロドロ
うん、いい音も出るしこれで驚かせてやるぞぉ。
幽霊は人を驚かしてナンボって、あたしの友達の幽霊さんも言ってた。
まぁ、そのお友達は何だか恨みが晴れて成仏しちゃったんだけど…
…っといけないいけない。
集中しなきゃ集中……えぇっと
「う〜ら〜め〜し〜や〜ぁ〜」
語尾をちょっと延ばしてみた。
おお! これはいいかも!
早く来ないかなぁ、この部屋の新しい住人さん。 あたしの最初の犠牲者。
「うふふ…うふふ」
笑みまでこぼれてきた。
だってしょうがないじゃない。 初めてなんだよ
初めて人を驚かすことが出来るんだ。 それにはまずつかみを…
「つかみが大事…つかみが大事…」
―――集中してたせいかなぁ?
まったく気がつかなかった。 あたしを凝視している目があることを。
- 868 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/15(土) 22:22:17 ID:TryF4TQO0
- 「つかみが大事…つかみが大事…」
「あの…」
「ひゃう!?」
突然声を掛けられた。
驚きのあまり、普段あたしは出したこともない声を出してしまう。
その声の主は、果たして目の前にいた。
「ここ、俺の部屋だよね…? もしかして…」
「はわ、あわ…ぅん…」
完全に―――完全に意表をつかれた。
驚かすはずが、最初に驚かされた。
こんなの末代までの恥だ…許さない。
絶対驚かして、その、オ、オシッコを、チ、チビルぐらいの恐怖を与えてやる。
まずは、そう王道のあれだ。 王道って言うのは絶対に失敗しないから王道って言うんだ…ってあの幽霊さんも言ってた。
「う〜ら〜め〜し〜や〜ぁ〜…」
よし、言えた。
コレでつかみは万全。 絶対腰抜かして、オ、オシッコだってちびってるよね?
「………」
ほら、驚きのあまり声も出ない。
うふふ…うふふ……なんか、面白いかも。
「……なにそれ、ギャグ?」
――――え〜っと…?
- 869 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/15(土) 22:22:58 ID:TryF4TQO0
- 「ちょ、ちょっと、あ、あたし幽霊なんだよ! こ、怖くないの!?」
思わずいきりたって叫んでしまった。
くぅ、こんなの く〜る で冷静な幽霊らしくないよぉ。
でも、そうだ、絶対に驚かすしかないんだから!
「怖くない乗って言われても、俺、見飽きてるし…」
――――衝撃の事実、相手は強者だった――――
「み、見飽きてるって!」
「最初は驚いたけどさぁ、網何回も見慣れてると流石に飽きちゃうんだよね。
それにしても、クク…ウクク…」
目の前の青年は急にお腹を抱えだして肩を振るわせた。
お腹でも痛くなったのかな? ちょっと心配だなぁ
「今時『うらめしや』だって! ウクク、ハーッハッハッハ!」
―――前言撤回、心配なんてしてあげない。
なによぉ、そんな『今時』なんて!
あたしはこう見えても、生前は りゅ〜こ〜のさいせんたん を行ってたんだからね!
「あ〜っはっは…… 久々に大笑いさせて貰ったわ。 サンキュウ」
「あ…ども」
―――ども、じゃないだろ、あたし!
内心自分で突っ込みを入れつつも、ちょっと頭を冷静にさせてみよう。
- 870 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/15(土) 22:24:11 ID:TryF4TQO0
- あたしは幽霊。 人を驚かすはずの幽霊。
んで、あるアパートの一室に住み込んだ(もちろん内緒で)
でも、何かそのアパートは先客さんが居たみたいで、『霊が出る』噂もあった。
で、全然誰も住まなくなって、あたしもいい加減ここから離れようと思ってた矢先に
新しい住民が来るって言うことが決まった。
で、その人を驚かす予定で練習してたんだけど……
「あ〜それにしても、本当に憑いてるなんてなぁ、俺ってついてるかも。 ククク」
こんな下手なだじゃれを言ってるような青年だった。
しかも、幽霊さんには慣れているようで、全然驚いてくれなかった。
「う……」
なんか悲しくなってきた。
あたし、何の為に練習したんだろ…
全部、コイツを驚かす為だったのに…
そう考えてたら、涙が溢れてきた。
「あ、お、おい、泣くなよ。 泣くなんて幽霊らしくもないだろ!
……泣く幽霊……ハッハッハ、面白ぇ!」
また笑い出した。 ムカツク。
決めた! 絶対コイツ呪いまくってやる。
古今東西聞いたこともない不幸な目に遭わせてやる!
「フンだ! アンタなんて絶対このあたしの手で 呪い殺してやるんだから!」
まだ涙が乾かない顔で、ソイツを睨んでアタシは消えた。
せいぜい、恐怖に怯えるがいいわ!
「呪い殺すって、ハハ! ボキャブラリーの少ない幽霊だなぁ! ハッハッハ」
……大笑いしてる。
絶対、絶対、絶対、絶対不幸な目に遭わせてやる!