狼男

477 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/04/04(火) 12:09:21 ID:bf3MymIW0
「腹ぁ、減ったなぁ」俺は狼男。
ここ最近、人間が山の動物を乱獲するせいで獲物がいねぇ。
まったく、人間ってやつは自分勝手な生き物だぜ。
っと、なら、丸々肥えた人間を食べりゃいいじゃねぇか。これがいわゆる妙計ってやつだな。
俺はほくそえみながら、民家を探した。

都合よく、目の前に一軒家があった。俺はノックする。
コンコン。
「はいはい、どなたですかね」ち、年寄りか。まぁ、腹が満たせりゃそれでいい。
「道に迷って…」「あらあら、それは大変でしょう。夜も遅いし、今日は泊まっていきなさいな」
「い、いや、俺は…」「さぁさぁ、入ってくださいな」有無を言わせず中に通された。
ち、食われるとも知らず、マイペースなババァだ。

家の中は質素だった。あまり、裕福じゃないようだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。俺は早速、本性をあらわそ…
「どこからきなすったかね」ババァが急に振り向いた。
「…遠くから」慌てたせいもあり、とっさに口についた言葉がそれだった。
「あらあら、それは大変。お荷物はどうなさいました?」ぐっ、なかなか洞察力がある。
「…狼に襲われ、必死に逃げたので…」「かわいそうに、いま、食事を作りますからね」
いや、食事はおま…。ふわっといい匂いがした。ま、まぁ、前菜代わりにご馳走になるか。
出されたのは質素なたまねぎスープとかぼちゃのパイだった。
「ごめんなさいね。たいしたもてなしもできないけど」
「あ、ああ」確かに質素だったが、俺は腹のすき具合もあいまって、がっついた。
「ずいぶん、おなかが空いていたのね」ババァはそういいながら、自分の食器を俺の前に出した。
「お?」「私は年だから、あまりたべないのよ」
「…あ、ありが…」ば、馬鹿、餌にお礼を言ってどうする!?
なんか、満腹になっちまった。俺は改めて部屋を見回した。
ババァは一人暮らしのようだ。
「あんた、こんな山奥に一人暮らしなのかよ」「主人が死んでもう、ずいぶんたつからねぇ」
「さみしくねぇのか?」「たまに孫娘が家に遊びにくるからねぇ」
ま、孫!! こいつはいい。孫の方が実が詰まってきっとうまいにちがいねぇ。
俺は寝室に通された。明日が楽しみだ。

478 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/04/04(火) 12:10:00 ID:bf3MymIW0

夜。
俺はそっと起きて、明日の計画を立てる。まず、居間にいき、間取りをチェックだ。
ふん、隠れるようなところはなにもないな。
なら、ババァを食ってババァに成りすますか。
なかなかいい手だと思った。ババァの寝室に行く。
その途中、台所もチェックだ。料理は味付けが肝心、なにがあるかなぁ?
わくわくしながら、食材のチェックを始めた。…ところが。
材料はほとんどなかった。かぼちゃが二つとたまねぎが4つ。
調味料はまぁ、普通にあったが、こんなので、身が持つのか?
で、なべを見ると、今日のスープが少し。…。
俺は居間に戻った。テープルを見ると日記があった。
何気なく、めくる。

…○月○日
明後日は孫娘が来る。
久しぶりにパイをご馳走してあげよう。
爺さんの形見の時計を売れば、なにか食材が買えるだろう。

…○月△日
今日、旅に迷った男がたずねてきた。
かわいそうに、狼に襲われたそうだ。
食事を作ってあげたが、なにぶん、たいしたものがない。
私の食事を分けたが、おなかは膨れたのだろうか。
明日は、旅の足しになるものを探して分けてあげよう。

ぱたんと日記を閉じる。
………ち、のんきなババァだぜ、明日は孫娘と一緒に俺の腹の中だってのによ…。
ひらりと一枚の写真が日記から落ちた。
ぽわっとしたかわいい女の子をババァが幸せそうに抱いている。
…ふん、ほんとにうまそうな娘だぜ…。


479 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/04/04(火) 12:11:16 ID:bf3MymIW0

翌日。

こんこん。

俺はドアを覗く。赤い頭巾をかぶった孫娘だ。
「中に」言葉少なく孫娘を通す。俺はというとフードに身をすっぽり包み、手は小麦粉で真っ白だ。
「声、おかしいよ、おばぁさん」こいつ、天然か?明らかにババァと俺は違うだろ。
「手、真っ白だね」「…パイを作っていたからな」俺は粉っぽい手をフードに隠した。
「ああ、すごくいい匂い」そりゃそうだ。お前のために準備したんだからな…。
俺は孫娘を食卓に座らせた。


…さぁ、物語は佳境だぜ。
俺は娘の背後に周り…


「ばぁさん、こっちはおっけーだ」「はいはい、ありがとう」ばぁさんを呼んだ。
「あ。あれ、おばぁさん?」この娘、まだ俺をババァと思っていたのかよ。
「今日はね、この人がいろいろ手伝ってくれたのよ」
食卓には、いのししや、熊、りんごや木の実など、俺が取り得るすべての食材がうまそうに調理され並べられていた。
もちろん、デザートはババァ手製のかぼちゃパイだ。

…あん? ババァたちを食べるんじゃないかって?
今度だ、今度。料理のうまいババァを食べるなら誰がそれを調理するんだ?
めんどくせぇだろ…。
あ、て、てめぇ、しんじてねぇな。そ、その証拠に俺はこれからここを根城にするんだ。
ババァたちは召使よ。俺が食材を取ってきてそれを料理させるんだ。
ほ、本当だぞ、しんじろよぉおおおおお!!

―END―