助言
- 407 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:21:43 ID:jCFK81ax0
- 1/6
「はぁぁ・・・」
何度付いたか分からない溜息。
高校に入って付き合い始めた彼と些細な事で喧嘩してしまった。
「・・・背が低いからって、子ども扱いすることないじゃん」
わたしは背が低い。最悪小学生に見られる事もあった。
最大コンプレックスであり、引くに引けなくなった理由だ。
今日は土曜日。
いつもなら彼と出かけている時間だった。
わたしは机に突っ伏し、鳴らない携帯電話を眺めていた。
「はぁぁ・・・」
鬱だ、溜息が自然と出てくる。
『なにこのネガティブな部屋!?』
突然の声にビクッと身体を振るわせる。
部屋にはわたし一人だし、両親は朝方から出かけている。
『雨降りみたいにジメジメしてて、なにやってんだか』
空耳じゃなかった。キョロキョロと周りを見渡す。
「誰か・・・いるの?」
”キシッ”
部屋の隅にあるベッドが軋んだ。
視線を向けるが、誰もいない・・・いや、わずかだけど布団のへこみがおかしい。
まるで、誰かが座っているかのよう。
「そこにいるの?」
『まったく子供じゃないンだから、いつまでもメソメソしない!』
子供、子供って、なんでみんな・・・。
「ちょっと、姿くらい見せたらどうなの!失礼だと思わないの!?」
親が留守でよかったと思いつつ、強い口調で問いかける。
わたしの言葉に応えるように2,3度家鳴りがする。
そして、ベッドの周りが霞んだ後、徐々に人の形が浮かび上がる。
ハッキリと分かるまでに1分も掛からなかったと思う。
- 408 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:22:47 ID:jCFK81ax0
- 2/6
そこにはベッドに腰掛けた少年がいた。
年は小学生の高学年くらい、わたしよりも頭一つ分小さく、かわいいと思える顔立ちだった。
「これで文句無い?」
少年が小首を傾げ訊いてくる。
「あ、うん・・・」
なにこの子・・・なんでほんとに出てくるのよ。
「ボクは見ての通り幽霊だから、あまり真剣に考えない方がいいよ」
幽霊?いままで生きてきて、そんなのを見た事も感じた事も無く、霊感というものはこれっぽっちも無かった。
「そこら辺ブラブラしてたんだけどさ、なんかくら〜い雰囲気に引き寄せられちゃって」
落ちこんだだけで幽霊呼べるなら、そこら中、幽霊だらけだよ。
「まぁ、ヒマだからしばらく厄介になろうと思うけど・・・ねぇ、聞いてる?」
え、厄介に・・・?
「ちょっと、厄介にっていうのは取り憑くとか、そういう意味?」
少年は少し考えるように上を見上げた後、わたしに微笑む。
「そういう意味でいいよ、というかもう取り憑いたから」
「え、待ってよ、わたしに選択肢はないわけ?」
この子は悪い幽霊には見えないけど、幽霊に取り憑かれてプラスになるとは思えない。
「うん、まぁ、部屋に取り憑く事にしたからそんなに焦らなくてもいいよ」
「あまり違いが分からないんだけど・・・」
「早く出て行ってほしかったら、落ち込んでた原因をどうにかしなよ」
落ち込んでた理由・・・ああ、そうか忘れてた。
「なんなら相談に乗ってあげようか?」
少年は笑みを浮かべ訊いてきた。
この子はどう見ても子供だし、絶対面白がってる。
「いや、キミに話すと悪化しそうで怖いからいい」
わたしは疑うような視線を少年に向ける。
「ふ〜ん、じゃ、別にいいよ。ずっと悩んでてくれたら、ボクも長い間居座れるから」
少年はそう言うとベッドに寝転んだ。
わたしは机に置いてある携帯電話を見つめる。
表示されている時計はもうすぐお昼を指そうとしていた。
- 409 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:24:04 ID:jCFK81ax0
- 3/6
「・・・わたしどうしたらいいんだろ」
一人で考えても答えは出そうになかった。
「いきなり言われても困るンだけど。まず、理由を言ってくれないと」
そうでした・・・。
ベッドに座る少年に彼との事を掻い摘んで話した。
特に彼の方を悪く言ったのは人として当然だろう、うん。
「なるほど、それで仲直りの機会を逃して今に至るってワケか」
少年は軽く頷き、納得したようにわたしを見る。
「バカだね」
一言、そう言った。
前言撤回、この子は悪い幽霊です。
「ボクから言わせて見れば、どっちも子供だよ」
「子供って、キミの方が子供じゃない」
少年は軽く溜息をついた。
「生まれた年を考えるとボクの方が年上なんだけど」
「え、そうなの?」
そういえば幽霊は年取らないのか、考えてなかった。
「そうなの。だから年上の意見は聞くこと」
見た目は子供なのに、なんだか複雑な気分・・・。
「あ、そうだ。ねぇ、わたしの事、お姉ちゃんって呼んでくれない?」
「はぁ?いきなりなに言ってんの?
さっきも言ったけど、ボクの方が年上なんだよ」
「いいじゃん、見ため的にはわたしの方が年上だし。
お姉ちゃんって呼ばれてみたいのよ」
少年が呆れたようにわたしを見る。
「却下だ。ボクにそんな義務はない」
「え〜、厄介になるんだから家賃だと思ってさ」
「却下!」
少年はわたしの提案を頑なに拒否する。
- 410 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:24:58 ID:jCFK81ax0
- 4/6
「よし、霊感のある友達に除霊方法訊くね」
わたしは机においてある携帯を取り、楽しそうに少年を見る。
「ちょっと・・・それ脅し・・・」
「やっぱり、塩とか苦手なの?」
さらに追撃を加える、わたしは決して楽しんでなどいない。
「・・・ぉ・・・ちゃん」
少年は俯き呟いた。
「ん、なに聞こえないよ?」
「お姉ちゃん!・・・これで文句無いでしょ」
「うむ、余は満足じゃ」
わたしは悔しそうにする少年に笑みを向ける。
「そんな性格だから子供だって言われるんだよ・・・」
少年は大げさに溜息をつき、わたしの方を見る。
「容姿はどうしようも無いけど、その性格をなんとかしないとダメだね」
サラリと酷いことを言うね、この子は。
「わたしだって、一応は自覚してるんだよ。
でも、なかなか直んなくてね」
性格は一朝一夕で変るものじゃないし、わたしは器用な方ではなかった。
「お姉ちゃんはなんとなく諦めてんじゃない?
ずっと、そういう風に見られてたからかもしれないけどね」
「・・・そう、なのかな」
「それで自然と子供っぽく振舞ってさ、落ちこんでるんだから自業自得だよ」
思い当たる事が多すぎて言葉が痛い。
「じゃ、どうすればいいの?」
「さぁ、どうすればいいんだろうね」
少年は肩をすくめて答える。
この子に相談したわたしがバカだった。
「でも・・・」
- 411 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:26:26 ID:jCFK81ax0
- 5/6
「でも?」
わたしは少年の言葉を促す。
「諦めさえしなければ結果は付いてくるものだよ」
「要は気の持ちようって事?」
「まぁ、そんな感じだね」
ふむ、この子の言葉も最もか・・・。
「ふふ、キミに言われるとできそうな気がしてきたよ」
「単純だね、お姉ちゃん」
か、かわいくない・・・わたしは引きつった笑みを浮かべる。
「キミねぇ、もうちょっと言い方ってものが」
「これがボクの性格だよ」
少年はいたずらっぽく笑う。
子供っぽいか・・・この子見てると分かる気がする。
わたしもこんな感じなのかな。
「はぁ、わたし、なに悩んでたんだろ。キミのせいでどうでもよくなってきた」
わたしは椅子から立ち上がると、大きく伸びをする。
「一応、励まされたのかな・・・ありがとう」
「べ、べつにそんなつもりで言ったわけじゃない」
少年がそっぽ向いた。
お、以外な反応、ちょっとかわいい。
「ふふ、そんな照れることないのに」
「照れてなんかいないやい。お姉ちゃんの口からそんな言葉が出るとは思わなかっただけ!」
「失礼ね。わたしだって感謝の気持ちくらい持ってるわよ。冗談じゃなくて、ほんとに感謝してるんだよ」
「うう・・・」
少年がくすぐったそうに身もだえる。
「そ、そんな事より、彼氏の方はどうするの?」
「ああ、今のわたしじゃ立場は変らないと思うから、しばらく離れてみようと思う」
それで終わってしまうなら仕方ないよね。
- 412 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/02(日) 00:30:02 ID:jCFK81ax0
- 6/6
「そんな事より」
「そんな事より?」
少年が訊き返す。
「お腹減ったから食べに出てくる」
「お姉ちゃん・・・」
少年が心底呆れた顔でわたしを見る。
「先は長いね」
「まぁ、いいじゃん!」
わたしは満面の笑みで返した。
わたしは自分自身が好きになれなかった。
でも、この子の言葉で変われそうな気がする。
時間はかかりそうだけど、きっと・・・。
そういえばあの子、何時帰るんだろ。
まぁ、いっか、楽しそうだし。