生きる

204 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/25(土) 16:57:05 ID:yrRSy8MX0
「う・・・」
何ともいえない気だるい重力
目蓋に淡く掛かるオレンジ色の光線
ゆっくりと、そうゆっくりと目蓋を開く。
「ここは、どこだろう?」
鉛のような身体を横たえたまま、微かに視線を漂わすと、
見慣れない電灯やしょうじが知覚された。
「わたしの家」
抑揚のない声がどこからか聞こえた。
やはりゆるゆると首を倒すと、横たわる僕のそばに女の子がちょこんと座っていた。
知らない娘だ。
薄いブルーのワンピース。掴んだら折れてしまいそうな細い腕。
肩口で切り揃えた艶やかな黒髪。妹が大事にしてた日本人形のような顔。
「あんなにたくさん血が出てたから、もう起きないかと思ったよ」
そういって女の子は僕を覗き込んだ。やはり知らない娘だった。
「自分で死のうとするなんて・・・お兄ちゃんはバカよ」
今は・・・今日は何日だ・・・。君は僕のことを知っているのかい?
僕の意識がしきりに発しようと試みるのだけれど、それを口にする前に女の子に遮られた。
「あなたの手当ては大変だったわ」
細い腕が伸びてきて、僕の手に触れた。
僕はまたどうしようもないほどの気だるさに、ゆっくりと目蓋を閉じる。
ガシッ。
痛みに目を見開くと、女の子がギリギリと手首に噛み付いていた。
「痛いよ!」
「そう・・・。あなたはまだ痛みを感じるの」
女の子が僕に抱きついてきた・・・。
「お兄ちゃんなんて、やっぱり助けなきゃよかった」

205 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/25(土) 16:57:56 ID:yrRSy8MX0

急激な寒気が全身を這った。
目を見開く。
眩しい。
同時に土の匂いと深い草いきれが肺胞を満たす。
鳥の声? 木々の葉擦れ?
鋭敏な知覚に戸惑いつつも、ここがあの日入った裏山だということを
僕はもうはっきりと判ってしまった。
腕を動かす。
ひんやりとした落ち葉の感触。
カタリ。
ああ・・・
小さな小さな、本当に小さな日本人形が
僕の腕の中にいた。
「・・・ありがとう。僕、生きるよ」
身体を起こすと、手首のキズがベリベリと開いた。