ホワイトデー
- 61 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 02:53:59 ID:KAFTcOCY0
- 「ただいまー」
暗いドアに明かりが灯る。
「おかえりなさい、りーは寝たよ。」
「悪いね、ホワイトデーなのに遅くなっちゃって」
「りー、拗ねてたよ。・・・・・しょうがないもんね。」
俺は靴を脱ぎ、リビングに向かう。夕食だ。
「飯、ありがとな。あと夜中までごくろー。」
俺は手をピッを上げ、椅子に座る。
「明日こそ真理のお墓、行こうね。」
向かい側に座った妻が言う。
「たまには挨拶しないとな。」
「もう、まじめに聞いてよね。」
トンカツをかじる俺にはどうやら説得力がないようだ。愛想をつかれてしまった。
「8年目だよな。」
「早いよねぇ。本当に。」
空になった食器を台所に持っていき。妻が淹れたお茶を一口。
あれは俺が父ではなく譲であり、妻が奈美の時だった。
そこにはまだ真理がいた。同じ近所に住む俺達はいわば幼馴染。
しかし8年前の今日、真理は死んだ。
- 62 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 02:55:04 ID:KAFTcOCY0
- 8年前
「今日ってホワイトデーよねッ!譲ッ!渡すもんあるんでしょ!」
机の前に立つ真理。朝からうるさい奴だ。俺は突っ伏しながら言った。
「ごめんなしゃぁい。お家にわしゅれましたぁ。」
「ふざけんじゃないわっ!今すぐ持って来い!」
「無理ぃ〜。遠いじゃ〜ん。」
「馬鹿たれがっ!」
バチンッ、と俺の頭を叩くと自分の机に戻った。
「ゆずー?聞こえたよ〜。忘れたんだってねぇ。」
「言葉の通りだ。ほしけりゃ家に行け。」
「ったく、しっかりしてよ。」
斜め後ろに座る奈美にも聞かれたようだ。こんな大事な日に忘れる男がいるわけないだろ。
俺はお返しに自分で焼いたクッキーをかばんに入れていた。放課後二人に渡すつもりだ。
「ごめんごめん、と。」
授業は順調に進み待ちわびた放課後がくる。
「おい、奈美。」
「なーにー?」
俺は奈美に袋で小分けにされたクッキーを投げた。受け取った奈美は不思議そうにそれを見つめた。
「えっ?これって?家に忘れたんじゃなかったの?」
「今日を忘れる奴は本物の馬鹿だよ。」
話しつつも奈美はそれをずっと見つめてる。
「手作りだから、期待すんなよ。」
「その台詞、私も言ったよね。でもありがとう。」
「当然だろ?さて次は真理なんだけど・・・・。」
「真理、部活だね。」
そう真理は剣道部に入っている。剣道部は終わるのが遅い部活でもある。
しかし俺は真理を学校の近くの公園で待つことにした。
メールも打ったから来るだろう。
「当然、真理も待つんでしょ?」
「当 然 です。」
奈美も待つらしく一緒に公園に向かった。
- 63 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 02:57:43 ID:KAFTcOCY0
- かなりの時間が経ったが真理は一向に来ない。
「真理、遅いね。」
「ちょっと時間かかってんな。」
奈美とベンチに座り考えていた。おかしい、遅くないか。
「ちょっと見てくる。待っててくれ。」
「うん、わかった。」
心配になった俺は学校に向かった。その途中だった。目の前に真理がいた。
「なに急いでんの?あんたは。」
「なにって遅すぎんだよバカッ!何してたんだよっ!」
何でかわからないがつい怒鳴ってしまった。
「ハァ!なに怒ってんの!バカはあんたじゃない!?」
「うるせぇ!心配したんだよっ!」
そうだ、心配していたからなんだ。だからつい怒鳴ったんだ。
「なんで心配されるわけ!?第一なんで私のこと呼び出したわけッ!?」
そうだ俺は真理に渡す物があった、だから待っていたんだ。
カバンからクッキーを取り出し真理に渡した。
「これ、渡そうとしてたんだよ。・・・・・実の話、持ってきてた。」
「あっ、これって・・・・・だっだったら最初から渡しなさいよバカッ!」
顔が少し赤い。
「驚くかなって思ってさ。」
「・・・・・・・なんでこんなことで。」
真理はうつむき何かを呟いた。微かだったが確かに聞こえた。
「ぁりがと・・・・・・・・。」
目的を果たした俺は真理と奈美のいる公園に向かった。
- 64 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 02:59:30 ID:KAFTcOCY0
- 「もう、大げさなんだから。」
俺の隣で奈美が笑う。
「ほんとこいつバカ丸出しだったわ。」
その隣で真理が笑う。
「だってマジで心配したんだぞ。友達思いの俺に感謝しろ。」
そして俺が笑う。
「なにが友達思いよっ。お節介もいいとこだわ。」
ハハハっ、とみんなで笑う。
「・・・・・・・・・ねぇ。」
真理が深刻そうな顔をして言った。
「いつまでもこのままでいようなッ。」
真理には似つかわしくない台詞だったが、この時は茶化そうなんて考えなかった。
「とーぜん」
「当然よ、聞くまでもないって。」
この時見た真理の笑顔はいまでも印象に残ってる。
「そっ!ならよかった。」
ここでそれぞれ自宅への帰路につく。
「それじゃおまえら、また明日な。」
「じゃーねー、真理ー、ゆずー。」
「・・・・・・・・・・さよなら。」
明日の俺達はいつもと変わらない、そう思っていた。
- 65 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 03:00:31 ID:KAFTcOCY0
- 信じられないんじゃない、信じたくないんだ。きっと奈美だって同じ気持ちだろう。
昨日真理が座っていた机には花瓶が置いてあり、真理がいない。
担任の話なんか耳に入らなかった。しかし、不思議な事が起こった。
真理が事故にあい死亡した時刻が6時頃、だが俺が真理と話していたのは7時頃。
しかも一緒に帰ったとまできている。
そうか、やっぱりあの時のさよならってそういう意味か。
それから一週間後、俺と奈美は墓の前にいた
「なぁ奈美、驚いたか?」
「驚いたよ。そりゃあ。」
「どっちに?」
「真理が・・・・・・・・死んだことによ。」
「そうか、俺もだ。」
そうだ、俺達は真理が死ぬなんてこれっぽちも思ってなかった。
だが、魂になっても約束を守る。そこが真理らしいとおもった。
是非クッキーの味がどんなもんだか聞きたかった。
だけどそれは3人があの世に行ってから話す。そう決めた。
真理はいなかったけど3人で誓った約束だ。
- 66 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/15(水) 03:01:10 ID:KAFTcOCY0
- 「ねぇおかあさぁん、これだれのおはかぁ?」
「これはね、お母さんとお父さんが好きだった人のお墓。」
「えぇー!そんなにたくさんひとのことすきになっちゃいけないんだよぉ?」
しゃがみこみ娘を諭す。
「この人はね、お父さんとお母さんの大切なお友達だったの。りーちゃんもお友達好きでしょ?」
「うん、だいすき。」
「それと同じなんだよ。好きな人は沢山いてもいいのよ。」
「でも・・・・。」
幼い子にはまだわからないようだ。まぁそんなことは年があがると共にわかればいいか。
「おとーさーん早くー。」
「お父さん遅いよー。」
「だって水道が凍ってたんだもん。しゃーねーじゃん。」
夫が線香に火をつけ供え、私が水をかけて拭く。
その後みんなで手を合わせる。
ねぇ、聞こえる?私の声?