男と霊の奇妙な生活
- 750 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/05(日) 00:23:23 ID:c7EL1P9c0
- 男『なァ、いつまでここに居るんだよ』
霊『………オマエガシヌマデサ』
男は深いため息と共にうなだれた。
事の始まりは三日前。友達とノリで行った心霊スポットで、見事に憑かれてしまったのだ。
声しか聞こえない相手は不気味ではあるが、特にこれといった実害が無い為に
イマイチ恐さが無く慣れてしまっていた。
男『随分と気の長い話だなオイ。そうだ、お前姿現せられないのか?』
霊『…?』
男『退屈だしさ。どうせ死ぬまで憑くっつーなら、俺も顔ぐらい知っておくべきだろ?』
霊『デキル……オマエカワッテル。コワクナイノカ?』
数秒ほど間を開けて答えた霊。わずかに戸惑ったように男に尋ねた。
男『いや、何されてるってワケじゃないしさ。物とか触れるのか?ゲーム付き合えよ』
そう言って男はテレビ台の下からゲーム機を取り出した。
霊『タブン……デモ、ヤッタコトガナイ』
男『んじゃ覚えろよ。教えてやるからさ。結構面白いんだぜ?さ、姿見せろよ』
霊『ウン………』
おずおずと言う返事が聞こえるや否や、男の目の前に白いモヤが発生した。
そのモヤは段々と濃くなり、人間の形を帯びてくる。
男『おぉっ!SFみてーだな!』
さすがに驚きながらも感動の声を上げる男。
そして、ついに霊はその姿を現した!
霊『どうだ?見えるか?』
そう言って手足を確認する霊。
黒い髪は肩まで伸び、白く透き通るような肌(実際僅かに向こうが見える)。
パッチリと大きな瞳の女幽霊が現れた。
- 751 名前:本当にあった怖い名無し :2006/03/05(日) 00:39:35 ID:c7EL1P9c0
- 霊『どうだ?』
それまでの声はくぐもっていてわからなかったが、今は完全に普通の女の声だった。
男『見えるぞ!おまえスゴいなー。こうして見ると普通の人間と変わらないじゃん』
霊『そ、そうか?』
感心して言う男に圧倒され、霊は戸惑いながら答えた。
男はそんな霊をまじまじと見て口を開く。
男『女幽霊か……しかも結構可愛くないか?』
霊『なっ!何を言ってるのだ!』
男の発言に白い肌を紅潮させ、慌てて怒鳴る霊。
男『だって幽霊らしいって言うよりも、普通の可愛い女のコって感じだし』
霊『え?あ、あーっと………うらめしや〜』
男『古ッ!』
男は霊が苦し紛れに出した【幽霊らしさ】に突っ込みを入れた。
霊もさすがにハズしたのがわかったのか、さらに顔を紅くして俯いてしまった。
幽霊としての尊厳を傷つけられてショックだったのか、唇を噛み締めて目には涙を
浮かべている。
男はその様子を見てさすがに慌て、バツが悪くなったのか台所に移動した。
男『な、なんか飲むか?お茶で良いか?』
霊『…………』
霊からの返事は無く、男は頭をポリポリと掻いて茶を煎れた。
霊『わ、私は幽霊だぞ!それを可愛いなどと……』
ようやく少し落ち着いたのか、霊が強い口調で台所にいる男に言った。
男『悪かったよ。だって可愛いと思ったからさ。可愛いって言われんの……嫌いか?』
男は台所から戻り、自分と霊の前に茶の入った湯飲みをそっと置いて言った。
すると霊は俯いたままの紅い顔をプイっと横に逸らし、震える唇を動かす。
霊『私は幽霊なんだぞ……でも、嬉しくない訳じゃ…ない』
- 774 名前:752 :2006/03/05(日) 22:12:46 ID:hUKxqBVw0
- 男と霊の奇妙な生活の続き。
昨日初めて姿を見せた霊と男は自己紹介を済まし、身の上話をしている。
男の名前は吉野裕也。21歳の大学生で、アパートに一人(+幽霊一人)暮しをしている。
霊の名前は床次綾。享年17歳。江戸時代に神官の家系に生まれた巫女だったが
町民の男と恋仲になった。しかし周囲にその仲は許されず、結局何処かへ消えてしまった
男を恨んで自害。それからは怨霊となり、男に取り憑いてはその死を見て来たそうだ。
『……そりゃゾッとしないなー…』
裕也は背中に冷たい汗を感じながら言った。
『私は怨霊だと言ったハズだ。お前が死ぬまで憑くともな』
当然のように言い、ズズっと少々ぬるくなりかけた茶をすする綾。
『ふーん…でも、俺に物理的な実害は与えないんだろ?』
『あァ。しかし、大体の者は気が触れて自殺しているな。憑いている事は度々本人に伝える』
『まァ見えない所で声がするっつーのは恐いわな。謎だとか未知だとか、正体不明な
モンに人間は弱いだろうから。あ、新しいお茶いるか?茶請けもあるけど』
裕也は空になった自分と綾の湯飲みを盆に乗せ、台所に移動する。
『あのな……私にはお前のその態度が不可解だ。なぜ私を恐れない?』
綾はゆったりとした白装束の袖をガバッと逆立たせ、いらだった様子で床を叩いた!
『あ、バカ!下の部屋の人うるせーんだから床叩くなよ!』
『あ…う……す、すまん』
いきなり強い口調で怒られ、しょんぼりとする綾。その周囲はずーんと暗くなり、
どこから出したのか人魂まで浮いている。
- 775 名前:752 :2006/03/05(日) 22:15:08 ID:hUKxqBVw0
- (ったく…しょーがねー幽霊だな)
落ち込む綾の様子を見て裕也は苦笑した。ヤカンに火をかけ、茶請けを出そうと棚を開ける。
『あ、クッキーしかねーや。綾は江戸時代生まれって言ってたけど…食うのかな?』
そんな疑問を浮かべて裕也は台所のカーテンから顔だけを出す。
『おーい……ってまだ落ち込んでんのかよ』
先ほどよりも一層暗さを増した雰囲気の綾にため息をつく裕也。
『放って置いてくれ……所詮は低級霊。人に恐れられないだけでなく、よもや叱られようとは…』
そう言って後ろ向きの体育座りをする綾。気づけば人魂も増えている。
(あっちゃー…落ち込む幽霊に憑かれてる俺って…)
浮かびかけた若干の情けなさを無視し、裕也はクッキーの箱を取り出した。
『もー怒ってねーから。な?それよりも綾、お前クッキー食べられるか?こんなモンしか
なかったんだけど、食えなかったら何だからよ…あれ?うわあっ!』
裕也が言い終わるか終わらないかの内に綾の姿が消え、突然裕也の目の前に姿を現した!
『く、くっきぃか!?わ、私も食べて良いのだな?裕也、男に二言は無いな?』
『お、おう!』
ガラリと態度を変えて興奮気味にまくし立てる綾に圧され、裕也は裏返った声で返事をした、。
『嗚呼…早く茶が沸かないだろうか。裕也、何か手伝う事は無いか?』
長く生きている中で、綾は当然現代の食事や菓子に興味を持っていた。
しかしそこは幽霊、想いを馳せるだけで口にした事は無かった。
『あーっと…とにかく静かに待っててくれ。用意すっから』
『大人しく待てばよいのだな?わかったぞ♪』
そう言ってニコニコ顔でチョコンと正座をする綾。
先ほどまでの暗さや人魂は消え、ほのかに輝いているように見える。
裕也は簡単なことに気づき、湯気を立てるヤカンに近づき小さく笑った。
綾は幽霊ではあるが、17歳の女の子に変わりは無いのだという事に。