跡取り3
- 696 名前:跡取り 2−1 :2006/03/02(木) 20:51:34 ID:WPnMKUHg0
- 書庫から一冊の本を持ち出し、読み始めた。
僕に足りないのは覚悟だ。そしてそれが立脚する自信だと思ったからだ。
「・・・マキャベリ?貴方は絶対的な支配者になれるの?」
「あっ姉さんっ」
いつの間にか姉が背後にいた。何か恥ずかしい気持ちでいたたまれなくなった。
「答えて」
君主論。冷徹な支配者たる指針の書。僕の真逆にあるような書だ。
「・・・わかりません」
「わからない?・・・まだ読み始めたばかりなのね。いいわ。こっちに来て」
姉は僕を促し部屋の真ん中に導いた。
「わたしを服従させられる?」
姉が僕を射抜くように見つめた。その表情からは真意が見抜けない。
「・・・それが、君主であるという事なら」
声が震えた。でも、それがきっと、姉が求める答えだと思ったのでそういった。
心臓が早鐘のように響く。手が痺れる。
「どうやって?」
姉はあくまで冷静に尋ねてきた。どうやって・・・?
- 697 名前:跡取り 2−2 :2006/03/02(木) 20:52:05 ID:WPnMKUHg0
- どうやって・・・。僕は必死に思考を巡らしながら、だが姉を見つめ返した。
目をそらさない。それは最低条件だったから。
「どう・・・やって?」
姉の頬が心なしか紅潮し、声はかすれていた。
「ひざまづいて。僕に」
「・・・はい」
姉はそのまま僕にひざまづいた。うつむいた顔からは表情は伺えない。
「姉さんは僕に・・・忠誠を誓う最初の一人になるんだ」
声が震えていたが、言い切った。僕は、華族の名門の跡取り。
姉がゆっくりと顔をあげる。
「・・・まだまだ。そんなことでは忠誠は誓えないわね」
初めて見下ろす姉の顔。紅潮し、桜色の頬にはにかんだ笑みがかすかに漂う。
「でも・・・私はあなたの最初の一人になるはずよ」
ひざまづく姉の肩に手を置く。指先は震えていたが、姉が掌を重ねた時震えは
溶けるように、消えた。
「そうだね」
「いつかくるのかしら?楽しみにしているわ」
静寂の中、僕と姉はただ見つめあった。