バレンタインデー
- 70 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 01:54:48 ID:fRPUGp200
- 俺は引っ越しが多かった
どの街も印象に残っているが一番始めに居た街だけは忘れられない。忘れちゃいけない。
教室、
「なんだ転校するんだ。ふぅーん。」
なんとも思ってくれないんだ
「で?何が言いたいの?用がないなら帰らせてくんない?見たい番組あるんだけど」
言いたい。 言えない。
「転校するってだけ?だったら帰るわよ。じゃあね。」
行かないで。言うから、絶対言うから。
誰もいない
「あ"ー」なんか出てしまった一言、鬱憤の矛先だ。電車に3時間も乗っていれば言いたくもなる。
13年経っても町なんてのは大して変わらないわけで記憶の断片を探り俺の旧家に行くことにした。
借家ではあったが俺の住んでいた家に変わりはない。次に俺はそこから3軒目の家に目を向ける
あいつの家だ。変わってない。庭も表札も。つい足を運んで見入ってしまった。
「うちになんか用?」
いつの間にか隣に若い女がいた
こっちをふてぶてしく見つめている
「あっ?いや、ね?怪しいもんじゃないですよ、いやすいません。」
(そりゃ自分の家がワケワカラン男に凝視されていたら怪しむよなぁ。立ち去るか。…………こいつの家!?)
俺はそいつの顔を見て確信した。面影が重なる。
- 71 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 01:59:00 ID:fRPUGp200
- 「おっおまえっ」
「警察ですか、今家の前に不審なおとk」
(呼んでるっ……… 警察をっ……………)
「っちょまぁぁぁぁぁっぁぁあぁぁぁっぁぁっぁっぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ
ぉ俺だ和真だ思い出せ俺はまだ娑婆にいてぇよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
俺はそいつの肩を掴んで訴えかけようとした
ガッ
グーで殴られた。痛い。口の中切れた。あっ、鼻血出てきた。
そいつは携帯の電源を押してからポケットにしまうと倒れた俺を蔑むような目をして言った
「なんだあんただったの?てっきり 死 ん だ かと思った。」
「…………勝手に殺すんじゃねぇよ。」
「ずい分と口がでかくなったわね、あの頃のあんたとは大違いね」
「悪いね、人は成長するんだ。環境が劣悪なほどワイルドにね」
立ち上がるとそいつは俺にハンカチを渡してくれた
「ふんッ、なにがワイルドよ。さっさとそのみっともない体液拭きなさい。」
「ったく、引越し初日から最悪だ。」
「あっそ、あんたの事情なんて知らないわ。じゃあね。」
そいつは身をひるがえすと去って行こうとした。どうやら来た道を戻るようだ。
じゃあなんでここに来たんだよ。完全に背中を向けたそいつに声をかけた
「ハンカチ、サンキューな。凛」
- 72 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:03:12 ID:fRPUGp200
- 数日が経った
アパートでの生活も慣れてきて時間的な余裕も出てきた、ふと洗濯をしていると
ハンカチが目に留まった。凛のハンカチだ。返すか。時間あるし、休みだし。
思い立ったらすぐ行動するのが俺の良いところだ。凛の家にはすぐついた
インターホンを押すと凛の母親ができてくれた。
「覚えてますか?和真です。ちょっとr」
「あぁカズ君?大きくなったこと、ほらほら上がってお茶淹れるから」
おいおいこんなに容易に人を家に上げるかよ。それともまだ俺が幼く見えるだけか?
くだらない葛藤している間に凛の母親が来た。
「はいカズ君、お菓子は適当に食べていいからね」
「ありがとうございます………」
ただハンカチ返しに来ただけなのに……………、するととんでもないものが目に入った。
仏壇だ。でも誰の?3日前俺は凛にあったが家族は元気だと言った。父も母も弟も。
じゃあ誰?誰なんだ?さらに見てはいけないものを見てしまった。
凛だ。遺影には先日あった凛より幼い凛が写っている。
驚愕の眼差しで遺影を見つめる俺に母親は言った。
「ありがとうね、線香あげにきたんでしょ?凛喜んでるよ。いつも仲よかったもんね。」
「……ぁあ、そうでしたね。あいつにはいつもやられましたよ。」
ハハハなんて母親と笑っていたがわけがわからなかった。
俺はこの前借りたハンカチを返しに来たんだ。線香?そんなもんあげに来たんじゃない。
嘘に決まってる。下手な嘘だ。しかし嘘は紛れもない本物で俺は自分自身に嘘をつくことになった。
ハンカチを返しにきた自分に嘘をつき俺は線香を立てて凛の家から去った。
- 73 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:07:08 ID:fRPUGp200
- なんか虚ろな顔をして家に帰った。まだ午前中だったがこれ以上外に出る気がしなかった。
俺はハンカチを返す事を口実にデートに誘おうとしたつもりだった。こんなはずじゃなかった。
「わかんね、わけが、まったく。」
2月でもまだ寒い。コタツに入ってテレビを点けてるが内容が頭に入らない。当然だ。
幼馴染が死んだんだ。大好きな人がこの世にはいない事になっているんだ。
引越しをしても凛は好きだった。他の人も好きになったが凛より好きにはなれなかった。
いつの間にか寝てしまったみたいだ。6時半。出勤まではあと1時間半ある。余裕。
携帯が目に入った。 Eメール受信 1件 知らないアドレスだ。
件名 凛
内容 明日バレンタインデーでしょ。あげるわ。
明日いつもの公園に来なさい。
凛!?ハァ!?あいつは死んでいる、でもこの前会った、携帯持ってた、でも死んでいる……
行くべきだ。知らなければ、真相を。決心した。凛に会う。本物でも偽者でもいい。
よし7時半だ。 かいしゃ 遅刻確定。
- 74 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:08:52 ID:fRPUGp200
- しかし決心したとはいえ吹っ切れはしなかった。仕事はおぼつかないし何もかも上の空。
凛の事しか頭に思い浮かばない。
「あー終わった。」
タイムカードを押した俺は真っ先に公園に向かった。小さい頃いつも遊んだ…………否、
弄ばれた公園だ。いつも凛は俺を玩具にしてた。
8時だ。明日までまだまだあるし12時に来るとも限らない。だが心中穏やかだった。また会える。
俺はベンチに座って缶コーヒーとパンをむさぼる。寒い。缶コーヒーを握る手が強くなる。
もう3時間経つ、あと少しだ。と思った矢先。
「なにしてんのよ?」
「ぅおお!!」
「何?その驚きかたッ!?人のこと馬鹿にしてんのッ!?」
そりゃそうだ、死人が目の前にいるんだ。驚かないわけがない。しかし冷静を装う。
「あっハハ、悪い。いきなりだったからな。」
俺の隣に凛が座っている。シャンプーだろうか、いい匂いがする。
お互い喋らない。まるで付き合ったばかりのカップルだ。
「ねぇ」「おい」
同時だ。気まずい。しかし凛はかまわず喋り続ける
「あんた、家に来たでしょう?」
同じ事を言おうとしていた。
「行ったよ。お前死んでるんだってな。なんで教えてくれないんだ?」
悲しい。こんなこといってる自分が悲しい。
「なんで教えなきゃいけないのよッ!?死んでても私は私でしょ!?冗談じゃないわよッ!?
思い上がるのもいい加減にしてくんないッ!?」
半ギレだ。知られたくなかったんだろう。俺はうつむいた。
- 75 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:10:39 ID:fRPUGp200
- 「……………違う、ショックだった。だってただ俺はハンカチ返しに来ただけなんだぜ!?
なのになんで………おかしいよ。」
涙が出てきた。
「ちょっとなに泣いてんの!?男でしょ!?見っとも無いわねッ!!」
思わず立ち上がってしまった。
「好きな人が死んだのに笑ってられるかよっ!!これが泣かずにいられるかよっ!!」
さりげなく告白してしまった。でも後悔はしてない。
「………………私だって死にたくなんかなかった。」
凛まで泣き始めた。
「私だってまだあんたと一緒にいたかった。できればこれからもずっと。」
「ごめん、凛」
「あんたは悪くないわよ。私が間抜けだから事故にあっただけの話」
凛は死因を話してくれた。どうやら凛は9歳の時に車に轢かれたらしい。
原因は相手の前方不注意。
お互い落ち着いてきた。11時52分。あと8分で明日がくる。
- 76 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:12:16 ID:fRPUGp200
- 「あんたさ、さっき 好きな人が って言ったわよね?」
「ぁああ?言ったよ?俺は凛が好き。大好き。」
これが吹っ切れるってことなのかな?簡単に口が動く。凛は顔がもう真っ赤だ。可愛い。
「…………よくそんなこと言えるわ。呆れた。」
「何度だって言ってやる。好き。大好き。超好き。」
「ハッ、馬鹿じゃない?ずっとやってなさい。」
いつもの凛に戻ってきた感じだ。時計はとっくに12時を過ぎている。今日が来た。
隣で凛がもじもじとしている。そう思うと手に持っている箱を俺に押し付けてきた。
「ほっ、ほらっあげるわよッ!!どうせ誰からも貰えないんでしょ!!ありがたく食べなさいよッ!!」
「ありがとう、大事にするよ。」
「大事にってあんた、食べ物なんだからちゃんとたべなさいよッ!」
「わかってるって、ちゃんと食べるよ。」
俺は箱のひもを解きチョコを一つ食べた。
「どう?おいしい?ねぇ?」
「うまいよ。すごく。」
「そっそりゃそうよねぇ。私が作ったんだから不味いわけないのよっ」
その後も俺は食い続けた。と言っても6個しか入ってなかったが。
食べ終わってまた沈黙が流れた。またしても凛が口を開く。
「そろそろ……………帰らなきゃ」
「えっ、それどういうことだよ。」
時間が無限にないことはわかっていた。でも早すぎる。まだいてくれよ。頼む。お願いだ。
- 77 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:14:13 ID:fRPUGp200
- 「ちょっと立って、私の前に立って後ろ向いて。」
「えっ?なんで?」
「いいからあんたは私の言うとおりにすればいいのッ!」
しかたなく俺は凛の前に立った。そのままいなくなるんじゃないかと思いつつ。
すると凛は淡々と喋り始めた。
「しかしあんた背高くなったわねぇ。昔はチビだったくせに。」
まただんだん涙が込み上げてきた。
「あんた向こうで彼女とかできた?ま、いるわけないか。あんたなんかにいたら
少子高齢化なんてとっくに解決してるわ。聞くだけ無駄だったわ。」
よせよ消えるならさっさと消えてくれよ。
「なんかさっきから肩ヒクつかせすぎ、もう泣くの止めなって。男でしょ?」
「あと私のこと追おうなんて考えないでよッ!あんたの世話なんてみたくもないんだからッ!!
わかったッ!?」
俺は黙って頷いた。
「よしっ、こっち向いて良いわよ」
いやだ、きっと振り向いたらいないに違いない。だめだ。振り向けない。
さよならすら俺に言わせてくれないのかよ。
「さっさとこっち向きなさいッ!!あんた日本語忘れたのッ!?」
「はっハイィィィッ!!」
凛がいた。それも目の前に。
次の瞬間凛の唇が俺の頬に触れていた。
放心状態の俺に凛は言った。
「誰があんたみたいな中途半端な別れ方するのよッ!?頭悪いんじゃないッ!?」
「なっ、覚えてたのかっ!!」
俺が転校する直前のことを覚えてたんだ。
「だけどこんどは私がそれをする番。次こそさよならね。ありがとう和真。 だいすき。」
凛の姿がぼやけてくるのと同時に涙が溜まってきた。俺は相当泣き虫らしい。
でも今涙を拭ってはいけない。きっと凛までいなくなるから。
しかし、溜まった涙が流れると同時に凛もいなくなった。
- 78 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/14(火) 02:16:31 ID:fRPUGp200
- 午前1時半、俺は家についた。チョコの入っていた箱を持って。
玄関をくぐり、座り込んでしまった。
クシャ
なに?今の音?この感覚?半泣きの俺は上着を脱ぎ、上着の背中を見た。
紙が貼ってある。
「僕は素人童貞です」
おいおい、俺はこれ貼ったままここまできたのかよ。馬鹿みて。
これのために後ろ向かせたのかよ。くだらなくて笑いが出てきた。
裏にもなんか書いてある。
「がんばって」
おめーもだよ。らしくないこと書いてくれたもんだ。わかったよ。やってやんよ。
あー、今日も仕事だ。寝よう。 凛、お休みな。