昔からだいっきらい!

53 名前:49 :2006/02/13(月) 13:05:01 ID:ZIz5ZPe0O
俺は幽霊なんてものには全く関わりがなかった。少なくとも、今まで。
しかし今日、生まれて初めて幽霊というものを見た。女の子だ。視力はそう良くはなく彼女の向こうにある箪笥の輪郭はぼやけているにも拘わらず彼女だけははっきり見えるのが不思議で仕方ない。
ベタなホラー映画に出てくるような幽霊と違って髪はそこまで長くないため、まだ幼さの残るその顔も確認できた。とても悪い霊には見えないが油断した隙に…なんて考えるとやっぱり怖い。
俺は取り敢えず台所から塩と皿を持って玄関に向かった。盛り塩とやらをやってみることにしたのだ。戻ってきたときにいなっている可能性だってあるし、やってみて損はないだろう。
「はっかったっのっ塩っ」
恐怖を紛らわせるためにその歌をエンドレスリピートで歌いながら玄関先に塩をセッティングした。が、その時。

54 名前:49 :2006/02/13(月) 13:06:49 ID:ZIz5ZPe0O
「いい加減にしてくれない?あんたの下手な歌延々延々聞かされて耳が腐ったらどうしてくれんのよ」
「へ?」
不満げな声に振り返るとそこには先程の女の子が立っていた。いかにも不機嫌そうな顔でしゃがみ込んだ俺を見下ろしている。
「なん、ですか?」
「だぁかぁらぁ、その下手な歌やめなさいって言ってんの」
恐る恐る訊ねると、俺の目に刺さらんばかりの勢いでびしっと指を突き付ける彼女。
「・・・もう歌ってないよ?」
「むむむ…ヘリクツ言うな!」
俺の返答は彼女を更に怒らせてしまうものだったらしく、彼女はそっぽを向いてしまった。
しかし歌だけでここまで嫌われることになろうとは。たとえ幽霊であろうとも乙女心は男の俺には理解し難いものなのかもしれない。
「なんかわかんないけど、ごめんな?」
「何よわかんないけどって。謝る気あるの?」
「いや、その、今のは言葉のアヤで…」
「そうやって言い訳するとこ、昔からだいっきらい!」
しどろもどろになる俺に彼女はぴしゃりと言い放つ。

55 名前:49 :2006/02/13(月) 13:08:11 ID:ZIz5ZPe0O
「昔からってお前俺の何を知って…」
反論を全て言い終える前に、突然俺の脳裏にある映像が蘇った。
───ずっとずっと忘れないからね、もう忘れてくれって頼んだって忘れてあげないんだから!
それは幼い俺と彼女の別れの日、彼女が車窓から精一杯俺に手を振る彼女の姿。
「・・・やっと思い出した?」
彼女はそこで初めて笑顔を見せる。その笑顔を見た途端、自然と涙が込み上げてきた。
彼女は本当に忘れないでいてくれたんだ。それなのに俺は…。
「ごめん…ごめん…」
俺は泣きながらあの頃よりも大人びた彼女を抱き締める。勿論彼女の身体に触れることは出来ないけれど、気持ちだけは近付けるように。
「いいよ、そんなに謝らなくても…あんたがバカだってことはあたしが一番よーく知ってるんだから」
彼女は最後の最後まで憎まれ口を叩いて俺の前から姿を消した。
「もう絶対忘れないからさ…また逢いに来てくれよな?」
誰もいなくなった空間に問い掛けると、耳元で「当たり前じゃない」と彼女が笑った。





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