夕暮れのさようなら

728 名前:夕暮れのさようなら :2006/06/02(金) 11:32:15 ID:cObABP5QO
 夕暮れの逢魔が刻。彼女が薄れていく。感じていた手触りも、見ていた顔も。
「さようならしようよ」
「そうだね」
「今まで我が儘に付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ」
「あっさりだね。私が居なくなっつ悲しくないの?」
 そう。これはきっと遠いお別れ。
「悲しい。だけどいつか必ず会えると願えば、これは再会の誓い」
「馬鹿。格好付けすぎ。ま、良いけどね。私は悲しくないし」
「お前らしい返答だな」
「むっ。やっぱり、あんたなんて大嫌い」
「そうか」


729 名前:夕暮れのさようなら :2006/06/02(金) 11:35:45 ID:cObABP5QO
 更に薄まる輪郭は空気にかすれて消えていく。背景に同化していく姿はもうほとんど見えない。
「うん、大嫌い。いつも優しくて、私は幽霊なのに」
「元は人だろ」
「・・・」
「・・・」
 彼女はもってあと僅かだろう。だから、今言う。
「大好きだよ」
「さよならする事に、了承したのに?女々しいよ」
「この場が別れ路だからこそ気持ちは変わらない」
「馬鹿、本当に大嫌い」
「・・・」
 そして、最後の時。
「さようなら。大嫌いだけど、大好きな人」
「うん。大好きな幽霊、さようなら」
「馬鹿・・・」
 彼女は、消えた。最後に、泣きながらも、最高の笑顔をして。
 俺も笑っていられただろうか。ああ、きっといられただろう。
「さようなら・・・」
 頬に涙が流れた。
「なに泣いてるのよ、馬鹿」
 そんな声が天から降ってきた気がした。