彼女の懺悔

169 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 22:02:17 ID:q6XGz5cI0
俺はどうしてこんな事になっているんだ・・・?

「畜生っ!またかっ」
目の前で大型トラックがスローモーションの様に迫ってくる・・・
すくんだ足は思うように動かす事が出来ず・・・
そのままグチャっと轢き殺された。

「ふふふっ、また失敗したわね。」
「・・・・・・。」
「ほらほら、早く起きないとまた始まっちゃうわよ。
 今度はどこまで行けるかしらねぇ。」
暗い部屋の中で女が一人楽しそうに話している。
視線の先では俺が激痛に悶えている・・・。
「はぁ、はぁ、・・・」
「あら、回復するのが早くなったわね・・・
 もっと苦しんでるところ見ていたいのに・・・残念。」
「はぁ、はぁ、い、一体いつまで続くんだ・・・?」
「あら、最初に言ったでしょ。あなたが私を殺した事を思い出すまでよ。」
ああ、それはたしかに聞いた。

信じられないが、俺が原因で彼女は死んだらしい・・・
彼女が死んだ原因を思い出すまで、過去の日々を繰り返さ無くてはならない。
間違いを犯すたび・・・何度も殺され続けてきた。
死に方はどれも悲惨だ・・・圧死・轢死・焼死・窒息死etc
死ぬ瞬間まで感覚があるのだ、堪ったものではない。
それだけ彼女の恨みが強いという事なのだろう。

170 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 22:03:34 ID:q6XGz5cI0
「なぁ、ちょっと訊いていいか?今回も俺はお前に会っているのか?」
「当然よ。私は私と会った時のあなたしか知らないんだから。」
「そう・・・か。」
今回の日々を思い返す。
しかし、目の前の女に会った記憶は無い。
いや、それどころか女の気配すら感じなかった。

「くっ、思い・・・出せない・・・」
「そう、ならもう一度やり直しなさい。時間はたっぷり有るんだから。
 ふふふ。」
「ああ。」
そして俺はまた過去にさかのぼってやり直す。

ほんの少し意識が戻りかける・・・
「も・・・もう、こんな姿見たくない・・・。
 ごめんなさい・・・うっううっっ・・・」
部屋の中で女が泣いている。
「何で・・・なんで思い出してくれないのよ・・・
 ずっと、ずっと前から・・・あなただけを見てきたのに・・・。」
ずっと見ていた・・・嘘じゃないだろう。
俺が忘れていた、本当に小さな他愛も無いことまで
この過去では何度も再現されてきたのだ。

171 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 22:05:06 ID:q6XGz5cI0
「どう?今度は少しは思い出した?」
女がいつもと同じ態度で訊いてくる。
だが、ずっと泣いていたであろうその目は真っ赤で・・・
前より顔もやつれている様に見える。
それはどこかで見たことがある様な・・・
「・・・いや、悪い・・・。」
「そう、ならまたやり直しね。」
あれは誰だ・・・いつあの目を見た・・・思い出せ・・・
「本当に思い出せないの・・・?いい加減イヤにならない?」
「ああ・・・。」
「私の事・・・憎い?」
「ああ・・・」
「そう・・・よね。」
「ああ・・・」
女の話に適当に相槌を打ちながら、必死に頭を働かせる。
俺はあの眼を知っている・・・
あの泣き声を聞いたことがある・・・
それは、いつ・・・だ?

「ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。
 ほ、ほんとは、一目逢えるだけで・・・良かったのに・・・
 あなたの笑顔が見れれば・・・それだけで・・・
 それだけで良かったのに・・・
 ごめんなさい・・・」
彼女の懺悔は続く・・・
ああ、憶えている・・・それは、あの手紙にも書いてあった・・・
差出人も書かれていない、初めて貰ったラブレター。
きっと、彼女が・・・その差出人。
俺は・・・俺はどうして・・・逢いに行ってないんだ?
思い出せない・・・

172 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/25(火) 22:06:31 ID:q6XGz5cI0
「お前、小さい頃眼鏡かけてたんだな。」
「えっ?お、思い出したの?」
「ごめん。今はそれしか思い出せない・・・」
「そ、そう。でも別に良いわ。次はもっと思い出すでしょ。」
「ああ、絶対に思い出すよ。」
「なっ、何よ急に?さすがにそう何度も死ぬのはイヤになった?」
「ああ、そうだな。でも・・・でも、それだけじゃないんだ。」
「それだけじゃ・・・無い?どういう・・事よそれ?」
「ん、秘密。」
「ちょ、ちょっと、なによそれっ!ふざけてるのっ!」

体が弱くて休みがちだった少女・・・
俺が話しかけると嬉しそうに笑ってくれた・・・
いつの間にか、俺の傍から消えていた彼女・・・
笑顔の良く似合う・・・俺の・・・初恋の相手・・・

何度も死んで、そのたびに彼女の懺悔を聞かされるのは辛いけど・・・
あの頃の彼女と自分に会えるのだ・・・
俺は、彼女と自分の顛末を知るために、何度もやり直すのだ・・・
いつか、彼女があの頃の笑顔を向けてくれるまで・・・
なに、時間だけはある・・・