一週間

930 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 00:01:28 ID:L/kB/QVq0
月曜日

俺は、月末が期限の企画を纏めるため一人会社に残っていた。
初めてリーダーになった事もあり、気合も入っていたのだろう。
気付けば日付も変わろうとしていた。
最近はいつもそうだ。気が付くと終電を逃してることもしょっちゅうだ。
と、突然空調とフロアの照明が俺の周りだけを残して消えた。
「うおっ!」
驚いて辺りを見回すと、ドアの所に見たことの無い女性が立っていた。
「あなた一人のために空調や照明を使ってられるほど、
 この会社余裕がある訳じゃないんだけど。」
その人はそんなことを言いながらこっちを冷たい目で見ていた。
「すいません。今帰りますので。」
知らず、敬語になる。
俺よりも少し年上のように見える。
「そ、あなた一人で頑張ったってたかが知れてるんでから。」
そう素っ気無く言いながらその女性は出て行った。
あわてて帰り支度をして、その日は何とか終電に間に合った。

布団に入るとなぜかさっきの女性の顔が浮かんだ。
「結構キレイな人だったよな。
 あの人が来なかったら今日は帰って来れなかったかも」
久しぶりの布団の中でそんな他愛も無いことを思っていた。

931 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 00:07:35 ID:L/kB/QVq0
火曜日

今日も気が付けば昨日と似た様な時間だった。
「ん、そろそろ帰るか。また怒られるのもイヤだし。」
そう言って帰り支度を始めようとすると
「またあなた一人で残ってるの?」
昨日の女性がまたドアの所にいた。
「あ、すいません。でも、今日ちゃんと空調も切ってたし
 照明も俺の周りしか付けてませんから。」
「はぁ、別にそんな事を言ってる訳じゃないんだけど。
 あなた一人で頑張ったところで無駄なんだから、さっさと帰りなさい。」
昨日より強めの口調で言われてしまう。
「でも俺リーダーだし、みんなの案を少しでもまとめて行かないと・・・」
「まるで解ってないのね。」
俺が言い切る前にはっきりと言い切られてしまった。
「いい、あなたが一人で頑張って何か形になったの?
 そんな才能無いんだからさっさと帰りなさい。」
「でも、俺が少しでも具体的な形にまとめれば、みんなも・・・」
「思い上がりも程々にしたほうが良いわよ。
 あなたの貧弱な頭で、どうにかなるような物じゃ無いのが解らないの?」
「ぐっ」
「一人で悩んで無駄なことする位なら、土下座でもして
 周りからやってもらったほうが良いんじゃない。
 うん。思いつきで言ってみたけど、それあなたにすごく似合ってるかも。」

932 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 00:08:05 ID:L/kB/QVq0
「なっ!」
「分かったらさっさと帰りなさい。
 ここに居たってあなたにできることなんて何もないわ。」
そう言うと勝ち誇ったような顔でその女は出て行った。

「ちくしょう。」
電車に揺られながらそんな事を呟いた。
何に対してだったのか、
好き勝手な事を散々言って行った女に対してなのか
何も言い返せなかった自分に対してか。
多分、両方だろう。

933 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 00:12:37 ID:L/kB/QVq0
水曜日

昨日の事があって、ムシャクシャしたまま仕事に向かった俺は・・・
言うまでも無くボロボロだった。
空回り そんな言葉がぴったり来る一日だった。

気付けば一人だけの時間。
「はぁ」
今日一日を思い返してため息を付く。
「まぁた一人で残ってるの?
 ホンと学習しない人ね。」
いつものところであの女が言ってきた。
「はいはい、無能な役立たずはさっさと帰りますよ。」
「そう、人間素直が一番よねぇ。」
荷物をまとめ帰ろうとすると。
「で、昨日言った事やってみた?
 みんな快くやってくれたでしょ。」
嬉しそうな顔でそんな事言って来やがる。
「はぁ?昨日言った事って土下座云々ってヤツ?
 俺がそんな事するわけ無いでしょ!」
「ああ、だから今日も一人でこんなとこ居るのよね。
 やれば誰か憐れんで手伝ってくれそうなのに。」
納得したように一人頷いている。
この女俺になんか恨みでもあんのか?
「そういうあんたはどうなんだよ?
 いつもこんな時間まで一人で居て、話し相手もいないから
 俺にちょっかい出してきたんじゃないの?」
「違うわ。私はあなたと違って一人でやるほうが仕事が早いのよ。
 どっかの人みたいな無能が近くに居るとダメなのよ。」
斬って捨てられた。
「でも、そうねぇ。
 土下座する根性も無いんなら、そこの落書きの採点でも頼んでみたら?」

934 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 00:13:29 ID:L/kB/QVq0
「え、落書きってこれの事か?
 こんなの人に見せるもんじゃないだろ。」
それはいつもの癖で書いたもののことだった。
「だって、あなた一人でできる事ってそれ位しかないんでしょ?
 なら、それ見せる位しか後はできる事ないじゃない。」
「俺を笑いもんにしたいのか?」
「ま、そんな所ね。
 でも、何もしてないって思われるよりは良いでしょ」
「なっ!」
凍りつく俺を無視して
「さっさと帰りなさいよ。
 ここに居たってできる事なんか無いんだから。」
そう言いながら女は出て行った。


俺独りでやっても先に進めないのは分かっている。
「でも、土下座やこれを見せるのはなぁ」
不思議と昨日の様な苛つきは無かった。

937 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 01:37:53 ID:L/kB/QVq0
木曜日

仕方なくメンバーに彼女から落書きと評されたモノを見せ
「ごめん、色々頑張ってみたけど俺一人じゃまとめきれなかった。
 取り敢えず、使えそうなのとかピックアップしてみたから
 これをみんなで摺り合わせながらまとめて欲しい。」
「あんまり役に立たないだろうけど・・・」
素直に謝って頼んでみた。
「ん、これとこいつ組み合わせれば結構いい感じになるんじゃないか。」
「あ〜、これを使えばこいつももっといい感じになりそうだな。」
「そっか、これを使えばアレも出来るよな。」
俺が頭を下げている間にみんなが色々言っている。
俺のことなんか見向きもしない。
「あれ?みんな呆れてるんじゃないの?」
「何言ってるんですか。こんな資料作ってくれてたんなら言ってくださいよ。」
「そうですよ。これメチャメチャ便利じゃないですか。」
「良くアンナ屑みたいな案からこれだけ拾い上げられましたねぇ。」
なんだかすごい褒められてる。
「そっか、うん。なら良かった。」
「じゃあ、これ使ってもういっぺん案だしますんで。」
「よし、もう一回練り直す!なんで少し時間ください。」
「あ、俺も時間ください!前のよりはずっとマシなの出しますから。」
なんだか誰も俺の話しなん科聞いてなかった。
「じゃあ、みんな来週までにまとめて出してくれるかな?」
「は〜い」
「ブツブツブツ・・・あ、解りました」
「よし、今度こそ。」

なんだか嬉しかった。
「今度逢ったらお礼言わないとな。」
多分、悔しがるか笑い飛ばすんだろうけど。

938 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 01:40:33 ID:L/kB/QVq0
金曜日

色々、思うところはあったけど独りになるまで会社に残っていた。

「あら、また独りで残ってるの?
 いい加減諦めて帰ったら。」
いつもの調子でそんな事を言ってきた。
「うん。やる事やったら帰ります。」
「そう、今日は素直なのね。」
「今まで色々ありがとう。
 ホント助かった。」
素直にお礼を言う
「ちょっ、ちょっと急に何言ってるの?
 とうとう逝っちゃったの。」
「いや、違うよ。
 やっぱり素直にならないといけない時もあるしね。
 早く帰れって言ってたのも俺の事気遣ってくれてたんでしょ。」
「ばっ馬鹿じゃないの。
 誰があんたの事なんて気にするのよ!
 自意識過剰なんじゃないの!」
「うん。そうかも。
 でも、いつも終電には間に合うように声掛けてくれてたし。
 俺のメモが役立つ事や、みんなに頼る事も教えてくれたから。」
「そっそれは、たまたまよ!
 わっ私はあなたが邪魔だと思ったから、帰れって言っただけだし
 土下座や落書きも、思いつきで言っただけだし・・・。」
「うん。それでもいいんだ。
 感謝してるのは事実だし、好きになったみたいだし。
 何か俺にできる事って無いかな?少しは役に立ちたいんだ。」



939 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 01:41:33 ID:L/kB/QVq0
「えっ、今さらっとすごい事言わなかった・・・
 ・・・好き・・・とか。
 ホントに?」
真っ赤になって聞いてくる
「うん。ホント。」
「だって、私年上よ?」
「気にしないよ。」
「社内恋愛だよ?」
「結構居るし。」
「きつい事ばっかり言うよ?」
「ほんとのことだからね。素直に従う。」

「・・・もう死んでる・・・のよ?」
「知ってる。」
「エッ。」
「知ってるよ。だってそこじゃ照明も空調も消せないし、
 俺が何を書いてるかなんて解る分けない。
 警備員さんも『毎日最後まで・・・』って挨拶してくるしね。」
「そっか、知ってたんだ・・・。」
「最初は不思議に思ったけど、あ〜そうなんだってピンときてね。
 で、俺にできる事って何か無いかな?
 あんまりとっぴなのは無理だけど、してあげたいんだ。」

「・・・じゃぁ、時々でいいから・・・こうやって私の話し相手になって。」
「時々?」
いたずらっぽく覗き込んでみる
「〜〜っ、そうよっ時々よっ!
 べっ、別に毎日だと、仕事の邪魔になる・・・じゃなくって、
 話すことがあなたに無いだろうなって思ったからよっ!」
「そっか。うん。そんなことで良いなら。」

940 名前:本当にあった怖い名無し :2006/04/18(火) 01:50:57 ID:L/kB/QVq0
数日後

「べっ、別に寂しいから話し相手になってるんじゃないんだかねっ
 あっあなたが自分の事よくわかってないから
 教えてあげてるだけなんだからっ!」  
「うん。知ってるよ。でも俺はこの時間が一番幸せなんだ。」
「そっ、そんなの・・・
 私もそう・・・ゴニョゴニョ」

こうやって二人で数日おきに深夜に話している。
帰り際に毎回、彼女の寂しそうな顔を見るのはつらいけど 
そこは突っ込んだら怒られるんだろう。

「こんどどっか旅行にでも行きたいなぁ。」
「えっ、ダっダメよ!混浴なんて
 絶対無理なんだから・・・」