迎え

398 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/32(土) 14:39:28 ID:9TJYBbr+0

俺は夜が怖い。12時。決まってこの時間から怪異が始まる。
ガツン、ガツン、ドン…ドンドンドン、バタバタバタバタ…
最初は音だ。
そして
電気が唐突に消える。昨日まではこの後電気がついて、同じことが朝まで繰り返された。
だが…、今日は…。


12時。涼子が自ら命を絶った時間。
遊びのつもりだった。俺には他にも女がいた。
ひどいふり方をしたと、いまでは後悔している。
だが、あいつが死んだとき、これで後腐れがなくなったと喜んだのも事実だ。

ごめん、俺が悪かった、涼子許してくれ。

俺は布団の中で目を瞑り、ガタガタ震えながら今日が無事終わることを祈った。


あいつが死んで一週間後。俺に手紙が届いた。
一人はさみしい。1週間後、迎えに行くわ
文面にはそう書かれていた。
差出人は涼子。消印は涼子が死んだ日になっていた。

怪異は涼子の手紙が届いた日から始まった。
その日から今日でちょうど一週間。
そう。約束の日だ。

399 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/32(土) 14:40:33 ID:9TJYBbr+0

…ガチャッ
ぎぃ…

鍵をかけたはずの、部屋のドアが開く音がした。
ぎしっぎしっぎしっ…
床を踏む足音が聞こえる。

俺は布団の中で震えながらも何者かが隣にいる気配を感じた。

許してくれ、許してくれ、許してくれ…必死に祈る。

何者かの息遣いが布団越しに聞こえる…


「来たわよ」りょ、涼子の声だ。
俺は耐え切れず叫んだ。
「許してくれ!!」
俺が声を発すると同時に布団がはがされた。そして、数秒の沈黙。
俺はうっすらと目をあけた。

暗闇に俺を見つめる人影があった。



400 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/32(土) 14:42:28 ID:9TJYBbr+0

「さみしいの。一人は」
「あ、あ、あ、あ」
俺は壊れた人形みたいに口をパクパクさせる。
「見て、私のおなか」
闇夜になれると涼子の姿がはっきりと見て取れる。

涼子は妊娠した。俺はそれをおろせと迫った。
あきらめない涼子に腹が立った俺は、学生時代の悪友に頼み解決してもらった。
その夜、涼子は死んだ。

死んでいるはずの涼子の腹はぽっこりしていた。
「あなたの子よ。あなたの…」涼子が俺の顔に腹を近づける。
ごくり…唾をのみこむ。冷や汗が滝のように吹き出る。

「あなたになら、何をされてもよかった。遊ばれてるのもしってたわ…」
顔を俺に近づけ耳元でささやく。

「ゆ、許してくれ…涼子」
「こわい? 私がこわい?」
「許してくれ許してくれ許してくれ…」
そのとき、涼子が泣いているのに気がついた。
俺は自分の罪の深さを改めて思い知らされた。

「りょ…涼子」俺は涼子の頬に手を這わせた。
ぱしっと払われる。
「いまさら、なに…」涼子の目には侮蔑の眼差しと…戸惑いの色があった。
「お、俺、本当にわるかったと…わるかったと思っている」精一杯心を込めて言った。
涼子はじっと俺を見つめている。
俺は何度も何度も、床に頭をこすりつけて謝った。

401 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/32(土) 14:43:27 ID:9TJYBbr+0

「いいわ。もう」
「ほ、本当に!?」た、助かった。俺は顔に出さないようにその幸運をかみしめた。
「あ、あなたのためじゃないのよ。もう、どうでもよくなっただけなんだから」
ちがう、こいつはまだ俺を好きなんだ。だから、だから…。
「さようなら」
涼子は俺から離れて窓に向かった。もう一度、俺を振り向く。未練が感じられる。
「りょ、りょうこ…」
ガラリと、窓をあけ、涼子はそこから消えた。まるで、死んだあの日を再現するように。


…呆然と俺は開け放たれた窓を見つめていた。
改心しよう。もう2度とこんなまねはするまい。
恵子ともわかれ、静香ともわかれ、真紀ともわかれ、美智子ともわかれよう。
おれはこれから、あいつの冥福だけを祈って生きていこう。
そう決意した。
そしておれは、涼子の消えた窓に近づいた。窓から空を見上げる。
「涼子…」
「呼んだ?」
はっと下を見ると、窓の下に…涼子がいた。


「今日はなんの日か知ってる?」涼子が手を伸ばしながら聞いた。
唾を飲み込みながら俺は、必死に考えた。
「時間切れ」すっと手が俺の首をつかむと、そのまま引っ張られた。

俺は落ちながら、涼子の嬉しそうな声を聞いた。
「許すわけないでしょ、ばかね。」

「…今日はエイプリルフールなの」

―END―


(編注)この作品が投下された正しい日付は2006/04/01です。