ありがとう

362 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/31(金) 11:51:42 ID:GjJ1+tyK0

ああ、どこまで話したっけな。
そうだそうだ。わしが変な幽霊に取りつかれたってところまでじゃな。
その幽霊はな、わしにまとわりつくくせにわしに関心がないふりをする。
いやぁ、まいったまいった。はじめはわしも恐ろしくて眠れんかったが、なれるとな、なんでもなくなるもんよ。
死んだ女房にはわるいが、あの幽霊はべっぴんさんじゃった。なれると悪い気分ではなかったよ。
あ、いや、こういうと女房が化けて出てきそうじゃな。いまのは聞かんかったことにしてくれ。

幽霊はな、悪戯をしよる。
わしの服を隠す。冷蔵庫の食料を食べつくす。テレビを壊す。
騒霊ってやつなのかの。横文字でいうと、「ぽるのがいすと」というんじゃっけ?
え、何? 「ぽるたーがいすと」? 小さなことを気にするな男が。
いや、あの霊なら、ぽるのがいすとでもええんじゃ。なんてったって半裸じゃからの。
わしも若けりゃ…、いやいや、女房が聞いとりそうじゃ。なんでもない。

まぁ、とりあえず大きな被害もなく、ほうっときゃええ、そう思ったんじゃ。
ある日わしの家に、親切なリフォーム業者がきたんじゃ。
身寄りのない年寄りを心配して、ただで家の改修をしてくれるいうんじゃの。
わしの家は、半世紀をこしとるけぇ、あちこちガタがきとる。
わしは頼もうとしたんじゃ。
するとな、あの幽霊、家に上がろうとした業者にフライパンを投げおった。
顔にめり込む勢いでな、傍からみても痛そうじゃったよ。
リフォーム業者は気が動転しとったんかの。いきなり、
「な、何しやがる、くそじじぃ!!」とさっきとうって変わって乱暴な口使いになってしもうた。
まぁ、幽霊はわしにしか見えんから、わしがやったようにも見えたんじゃろうな。
リフォーム業者はわしにつかみかかってこようとした。
すると業者のベルトが切れて、ずり下がったズボンに引っかかってすっころびおった。
そのときは業者もおかしいと思ったんじゃろ、家を慌てて飛び出していきおった。いやぁ、ほんまに悪いことをした。

わしはもう、説教せにゃならんと思って幽霊に怒鳴り散らしたよ。すると幽霊はしゅんとしてな。
怒りすぎたかの…と思うと、フライパンが飛んできたよ。いやぁ、痛かった。痛かった。
それから、幽霊は姿を見せんようになった。

363 名前:たまねぎツンデレ ◆vSaTtgGg0. :2006/03/31(金) 11:53:02 ID:GjJ1+tyK0

姿は見せんようになったが、いたずらは続くし、たまに電話にもでよる。
ぷるるるる…となったと思うと数秒でガチャンときったりの。
わしは怒るんじゃが、姿が見えんとどうしようもないの。聞こえとるんかどうか、わからん。
じゃが、ガチャンと音がして食器が割れるところを考えると、聞こえとるんじゃろうな。やれやれ。
わしはまぁ、そうやって一人じゃけど、にぎやかさを感じながら生活しとったんじゃよ。

じゃけど、わしはそいつが優しい子じゃというんはしっとるんよ。じゃけ、お祓いもせんかった。
幽霊が優しい証拠?
そりゃ、ほら、わしがこうして倒れ時も救急車よんでくれたしの。
まぁ、無駄になりそうじゃが。
心残りはわしが死んだあと、幽霊はどうするんかのぉ、ということじゃ。
それでな、同室のよしみで、ひとつ頼まれてくれんかのぉ


……
「結局、そのじいさんは、病院でなくなった。俺はじいさんの遺言でじいさんの家を訪ねた」
「話に聞いたとおりさ。誰もいないはずの家からフライパンが飛んできた」
「必死に会話を試みたが、俺には姿も見えない。だから、じいさんの手紙をおいて俺は家をでたよ」
「家の玄関を出たときに回覧板がおいてあるのが見えた」
「なにげなく、目に飛び込んだのは、オレオレ詐欺注意だの、悪質リフォーム業者注意だのの警告文だった」

「ん? じいさんの手紙に何が書いてたかって?」
「ありがとう。の一文字さ。あ、盗み見たわけじゃねーよ。俺が代筆したんだからな」
「まぁ、そんな話さ」

―END―