回る少女

383 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 20:44:53 ID:u0IPvT0E0
夜ひとりでに響くピアノ。一段増える怪談。歩き出す二宮金次郎。トイレの花子さん…etc…etc。
学校の7つの怪談。あなたはいくつ遭遇したことがありますか?

僕は残念ながらひとつです。…え、どの話だって?
僕の話はね…

『回る少女』

小学校5年の暑い夏の放課後。僕は学校に一人取り残されていた。体育の授業で逆上がりが出来なかったのだ。
一生懸命、がんばるがどうしても出来ない。カラスが寂しく鳴いている。
「できるわけ…ないじゃん」つい、愚痴が出る。それでももうひと頑張りしようとしたら鉄棒から落ちた。
「…くすくす」どこかで笑い声が聞こえた。「笑うな!」…あれ? 誰もいない。
「気のせいか」沈む夕日を尻目に僕は逆上がりの練習を続けた。

次の週の同じ日。
僕は相変わらず、逆上がりをしている。他のやつらは、なんでこんなこと出来るんだろう?
その日は僕は頑張りすぎた。いつの間にか日が落ちていた。
鉄棒のある場所は校庭の端っこにあったので管理人さんも見逃したのだろう。ちょっと寂しい。
…てー…ん…て…ーん。
ボールをうつ音が聞こえてきた。…ひとりじゃないんだ。僕は不思議を感じるより先に、誰かがいることに喜んだ。
「もう一回、やって帰ろ」…誰かがいる喜びのためか、怖くて帰りたかったためか。出来ちゃったよ、逆上がり。
「ひゃっほぅい!!」調子にのって再チャレンジ。また出来た。んじゃ、もう一度…と続ける僕に、
「あんた、馬鹿じゃない」唐突に声をかけられた。目の前に僕と同い年くらいの女の子がいる。
「こ、こんばんわ」「こんばんわじゃないわよ。馬鹿みたいな声上げて、くるくる回って。バターになるつもり?」
「で、でも出来たんだよ、逆上がり」「私でも出来るわよ。私なんて大車輪もできるんだから」…絶対嘘だ。
「じゃぁ、やってみろよ」「ふん、うら若き乙女がスカートの中身をさらせると思って?」確かに彼女はスカートをはいてる。
「じゃぁ、明日、ズボンでこいよ」「ふ…ふん、臨むところよ」そうして僕たちは約束を交わした。
僕が荷物を取って校庭に戻ると彼女はいない。先に帰ったんだろうか?
門をくぐろうとした僕は、また、…て…ーん、てーん…とボールの弾む音を聞いた気がした。


384 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 20:45:26 ID:u0IPvT0E0
次の日の放課後、僕は昨日の少女を待った。しかし、いくら待ってもこない。しまいには用務員さんに怒られた。
もう…こないのかな? 僕は帰ろうと校門をくぐった。そのとき。
…てー…ん…て…ーん。あ…ボールの音。僕はなんとなく、鉄棒のところにもどった。
「おーい、だれかいるの?」声をかけるとボールの音がぴたっとやむ。
「…おそい」昨日の少女が腰に手をあて威張ってる。…遅いのは君だろ…。口には出さなかったが…
「私が世界の中心なの。私に不満をぶつけるのは50年早いわ」人の考えを読み取ったように答えた。…こいっつ…。
「さ、今日はちゃんと運動できる格好よ」そういった少女をみると…ん、なんか変だ。
テレビで見るような田舎っぽい格好している。「なんだぁ、それ。だっさーw」
「ふん、あんたごときには私のハイカラな格好は理解できないでしょうね」
ハイカラってなんだ? 僕はまた馬鹿にされるのもいやだったので聞き流して、鉄棒にスタンばった。
「それじゃ、いっせーのせ、でやるよ。いい?」
「ふん、はやくしなさいよ」
「じゃ、いっせーの…」

「せ!!」

…くるん。僕はちゃんと成功。隣の少女を見ると…

…くるん、くるん、くるん、くるん、くるん、くるん、くるん、くるん…回る回る。
…お見事です。
最初はゆっくり回っていたのだが、どんどん加速していく。
おいおい。こんなのスカートでも中身見えないよ。

…くるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるん…

少女は止まらない。


385 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 20:45:58 ID:u0IPvT0E0
それを見てるうちに、ちょっと怖くなってきた。
「も、も、もぉいいよ。わかったよ。僕の負けでいいからやめなよ…」声が震える。
くるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるんくるん…ヒュッ…ぐるんぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる
くるくる回る彼女から、空気を裂く音が聞こえたかたと思うと、少女はさらに加速した。
「ひ、ひぇぇ…」ぐるぐるぐるぐるぐる…僕はもうどうしていいかわからない。
そういう時、人は本当に「ひぇえ」って言うんだなと何気に思った。

「もう、やめて!!やめて!!」僕は我に返り必死にお願いする。
…少女は相変わらずぐるぐるぐるぐる…。
…で気づいた。
彼女が少し小さくなってる気がする。
僕は昨日の少女との会話の「バター」を思い出した。
「う、うああああ、溶けちゃってるよ!!」僕は危険をかえりみず、彼女を止めた。
「わ、わ、わぁあああああああああああ!!!」遅かった。彼女の頭がもうない。頭がない!!
腰が抜けた。彼女の体がずるりと鉄棒から落ちる。…ドスン。ピクリともしない。
「ひ、ひぃい」股間が生暖かく湿ってくる。首のない体というのはとても気味が悪いものだ。
それが知っている人のものだとさらに、恐怖が増す。
僕は気を失った。

「ねねぇ、ちょっと起きてよ」…僕は少女の声で目が覚めた。「無事…だったの?」あたりを見回す。少女はいない。
もう、日は沈んでる。鉄棒のあった場所は真っ暗だ。
「無事といえば、無事なんだけどねぇ」僕は悪い夢でも見たのだろうか。それより、少女の姿がないのが不安だった。
声…聞こえるのに。…ん?どこから聞こえるんだろう。僕の真上…!?

木の上から少女の首が僕を見下ろしていた・・・

「うぎゃーーーーぁあああああああああああああああああああああああああ!」両手だけでその場を離れようとする。
「あ、あぁ、、あああ、い、いかないで、いかないでぇえ」怖い。怖い。怖い。なぜか僕は鉄棒の場所に来てしまった。

首なしの胴体がふらふらしていた・・・


386 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 20:47:10 ID:u0IPvT0E0



ぷちっと何かが切れた音がした。すると妙に冷静になった。あれは、あれだ。夢だ。
遠くで「お願い、助けてー」とか言ってる。お笑いだw そんな現実はない。
僕は、もう一度、彼女を見に行った。大粒の涙がぼろぼろ…ぼろぼろ。
「わははは、ばっかみてぇ」僕はおかしくて笑った。どうやら、木に引っかかっているらしい。
僕を馬鹿にするからだ。「ごめんは?」「え?」うろたえる少女。急に強気になった僕にちょっと戸惑っているらしい。
「ご・め・ん…は?」「ごめんなさぁい…」僕は満足げにうなずいて木に登り、彼女をおろしてあげた。
手に持った彼女の髪からいいにおいがした。さすが女の子。ちょっと抱きしめてみる。
「む、むぐぅ」彼女が抗議の声を上げる。かわいい。彼女の体においてあげた。
「えっち…」自分の体とひとつになった少女がぽっと顔を赤らめて、走り去っていった。
さて、これは夢だ。ねなおそ…。僕はそのまま木の下で眠りについた。

翌朝。僕は用務員のおじさんにこっぴどくしかられていた。僕は木の下で寝ていたのだ。
夢の話をするとおじさんはこう話してくれた。
「あそこにはな。てまりの少女がおるんじゃ」
「夜中にな、ひとりでてーんてーんとてまりをついてるんじゃよ。」
「それでよーく近づくとな、まりはその少女の首なんじゃ」

それからはいつもの日常。
ただ、授業中窓の外をのぞくと、もんぺをはいた女の子が僕に手を振るようになった。
手を振り返すと、少女は満足げにうなずき首をはずして、てー…ん、てー…んと去っていくのだ。

…終わり。