薫と僕‐最終章‐

360 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 12:13:37 ID:u0IPvT0E0
僕には背後霊がいた。
勝気で横暴なところもあったけど、そそっかしくて、それでいて優しい僕だけの背後霊が…。
でも、それも昔の話。今は…もういない。

『薫と僕‐最終章‐』

僕と薫の微妙な関係が続いて早一年。ここのところ、体調を崩すことが多くなった。
病院にいってみたが原因はよくわからない。バイトが忙しかったからそのせいだろう。
「ふん、鍛練が足りないのよ」とかいいながら、薫は俺の看病をかいがいしくしてくれた。
だが…病状は悪化し、僕はついに入院することになる…。

田舎から僕を見舞いに母が来た。「あらまぁ、鬼のかくらんかねぇ。丈夫に生んだつもりなんだけど」僕を見て母は大笑いした。笑い事じゃねぇよ。
りんごをむいてくれている母が看護婦に呼ばれた。「あらら、治療費かしら…この金食い虫」なんていいながら母は出て行った。
「お母さん、きれいな人だね」それまで黙っていた薫が僕に声をかけた。彼女はいつもそばにいる。
「顔色よくないね」前までは僕を振り回していた薫だが最近は元気がない。
「いや、今日は調子がいいよ。ありがとう薫」僕はしゅんとしている薫を元気付けようと声をかけた。
母さんが戻ってきた。ちょっと顔色が悪い。「どうしたの? 高かったの?」
「う、うん。ちょっと手持ちじゃ足らなくてねぇ。ほんっと、この金食い虫…」あはは…すんません。
母さんはお金を下ろしてくると病室を出て行った。その後ろ姿を薫は眺めていた。
「私、外の空気吸ってくる。病室ってあまり好きじゃないから」薫も外に出て行った。
薫には調子が良いといったが、実は今日は絶不調だった。だから、僕が眠りにつくのは早かった。

深夜。目を覚ますと薫が僕の顔を覗き込んでいた。
「うわっ」「あら、起こしちゃった」薫が悪びれる風もなく言う。
「私、あなたの背後霊やめるわ」「…え…」唐突だ。
「何いってるの?」「私は病院嫌いなの。病弱な男に用はないのよ」ぐはっ。
「他の健康な男に取り付くの。じゃぁね。軟弱さん♪」
それだけ言い残して、薫の気配は消えた。あとに残された僕はただ、呆然と窓の外をみていた。

361 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 12:15:08 ID:u0IPvT0E0
あれから、3週間後、僕は無事退院できた。
ただ、寂しさは募るばかりだった。ある日、そんな自分の夢枕に死んだおじいちゃんが現れた。
「少しは元気にならんと薫さんもうかばれんぞ」なんじゃそりゃ、僕は彼女に見捨てられたのだ。
「ほっほ。お前は短絡的な性格じゃぁなかったんだがな。あんなにべたべた見せ付けておったくせに彼女のこと何も知りゃせん」
「おあいにく、まだそれほど長い付き合いでもなかったからね。あんな浮気する女とは思わなかったよ」
爺ちゃんは僕を本当に情けなさそうに見て、「薫さんはの、お前のために成仏したんじゃよ」と言った。
「え…」「あの日、お前の母があの足のきれいな看護婦しゃんに呼ばれたろ」看護婦の足なんてみねぇよ。
「お前の母親のそのとき、お前の死の宣告受けたんじゃ」おいおい。そんな大病だったのか。
「原因は、薫さんじゃったんだがのぉ」「…は?」

人は食事をして栄養を取る。では、霊はどうするのか?
浮遊霊などは大気に散る有象無象の生気や精気からエネルギーを補給する。
しかし、人に取り付くとその人間の魂から力を得るらしい。それは、自分の意思でどうにかできるものではないそうだ。
人が吸う空気をを選べないように。
本来人間が支えられる霊は一体分のみ。自分の守護霊と呼ばれる霊のみだ。しかし、僕は薫も背負ってしまった。
僕の体はそれが原因で衰弱していったそうだ。

「ワシも悩んだんじゃが、やはり薫さんには本当のことをいったよ。そして彼女は成仏することを選んだんじゃ」
「なんで、早く言わないの!! 僕はちゃんとお別れを出来なかったんだよ!!」爺ちゃんにつかみかかった。
するりとすり抜ける。「まぁ、そういうわけじゃ。最後にの、お前が回復したら伝えてといってたことがある」
「これからも、がんばってね。…あんな別れ方でごめんね…じゃと」
夢から覚めた僕のほほには涙が伝っていた。僕はそれをぬぐって外に出た。
咲き乱れる桜、春のかおりが僕の鼻腔をくすぐった。

それから、15年。僕はゲーム会社を興して社長になった。お金はたくさん出来たが、嫁はもらわなかった。
僕の恋人はただ一人。薫だけでいい。いま、僕は32歳。忙しい日々に追われている。

362 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/20(月) 12:16:06 ID:u0IPvT0E0
「社長、恋人作らないんですか?」昨日入った新人バイトの子が僕に聞く。
「はは、仕事が恋人さ」顔も見ずに僕はいう。
「ばっかみたい。いまどきはやんないのよ」うあ辛らつだなぁ、この子。
「前の彼女を引きずっているとか?」しつこい子だ。
「…君、口は気をつけないと…」顔を上げて…絶句した。
そこには薫がいた。
「ほんと、あんたって馬鹿なんだから」おでこにキスをされる。
「生まれ変わりって、信じる? …ふふ、今度はちゃんとした恋愛しようね…」そういって走り去っていった。
涙でくしゃくしゃになっていく彼女の後姿を眺めながら、
こういうのもロリコンっていうのかなぁ…とふとおもった。

‐了‐