ハムスター←僕←ツンデ霊

285 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/19(日) 15:29:23 ID:sXAvKSQC0
一人暮らしの僕は、さみしさからハムスターを飼っていた。
僕の本当に大切な心の拠り所だった。
よく懐いてくれて、手から喜んでエサを食べた。
嬉しかった。

だけど、学校の帰り道・・・・僕は信号無視の車にはねられ
病院に担ぎ込まれてしまったらしい。

らしいというのは、一月意識がなかったからだ。
気がついた僕は一月後だった。泣いている両親の顔を見上げ・・・
はっと気づいた。
ハムスターは・・・一月もほったらかしてしまった!

それから三日後、僕はアパートに帰る許可を貰った。
両親が付き添うといったが、田舎から出てきていたし、仕事や妹もいる。
帰らせた。なにより・・・ハムスターの埋葬の道のりなんだ。
一人でいたかった。

「・・・ただいま」
誰に言うともなく、部屋に入ると
「ちょっ・・・何やってたのっ?!あきれたわよっ」
という返事が。驚きながらも部屋を見ると、出掛けに散らかっていた部屋は
綺麗に整理され、なにより・・・
ハムスターも元気にこちらを見ていた。
「・・・ふん。貴方のためじゃなくて・・・ハムスターがかわいそうだから」
声はするけど、姿はどこにもない。
でも・・・こちらを見てわさわさと動くハムスターは元気なままだ。
ゲージの中も綺麗に清掃されていた。
「・・・・ありがとう」
「な・・・勘違いしないでよねっ」

ただ・・・ハムスターは一月の間に飼い主を完璧に取り違えていて、僕を忘れていた

287 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/19(日) 15:57:09 ID:sXAvKSQC0
噂には聞いていた。
このアパートが安いのは、でるからだって。
でも僕はそういう感覚がなかったし、出るなら出るでいいと思っていた。
寂しくないから・・・・

でも。今は2重の寂しさを味わっている。
僕が寝ている間。学校に行っている間に、ハムスターはエサを食べ、掃除も
されている。僕がゲージを覗き込むと巣に隠れてしまったりした。

「・・・・どうして」
ポツリとつぶやいたとき、誰もいない部屋。僕の背後から声がした
「・・・な、ならっあたしを世話すれば、いいじゃないっ」
「え・・・?」
「だっだからっあたしがハムスターを世話するから貴方がわたしを世話するのっバカね」
・・・姿も見えない。僕はあの日以来おかしくなってしまったのだろうか。
「・・・その・・・悪かったかなって思ってるのよっでもでも、あのままなら死んじゃってたし」
「うん。ありがとう。世話してくれて・・・でも、君を世話って・・・どうすればいいんだろう」
おかしな話だが、僕は新たな拠り所が欲しかったのかも知れない。
「ふんっ・・・自分で考えなさいよっそれくらい」
さっきまでの弱気なトーンから、一転して何か弾む声が響いた。
僕は新たな世話をしなければいけないらしい。たぶん・・・出るといわれていたものの。

早速僕は、塩を持ってみたのだが、夜中えらい剣幕で起こされた。
「あ・・・あんたバカッ?!それともわたしをお祓いしたい訳っ?!」

塩はダメらしい。ひまわりの種もダメだったし。前途は多難だ

288 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/19(日) 16:10:06 ID:sXAvKSQC0
同じクラスに、いわゆる霊感少女がいる。
普段は会話もないんだけど、僕は途方に暮れていたので彼女に
相談してみた。彼女は僕の斜め後ろを見やり
「・・・なるほどね。じゃ、耳貸して」
と顔を寄せてきた。耳打ちというやつだが、ドギマギしてると
やっぱり斜め後ろを見つつ、ニヤッと笑い
「・・・早く。・・・ふふっ怒ってるよ?」
といった。斜め後ろにいるのだろうか?ハムスターの世話もせず。

彼女から聞いた知恵を持ち、僕はコンビニでワンカップを買って帰った。
身分証を見せ、親に買って帰るんだとなんとか説き伏せて買ったんだ。
お神酒というらしい。これを部屋に置けばいいとの事だった。

半分封を切り、巣から出てこないハムスターに寂しく思いつつも就寝した。
今日は・・・・黙ったままだったな・・・・・

「ちょっとぉーっ起きなさいよぉーっもぅーっっ」
夜半。午前2時頃、いつのも声で僕は起こされた。
心なしかろれつが回っていないような?
「・・・なに・・・どうしたの?」
「どしたのじゃ・・・ないわよぉっなんなのあの娘はぁー・・・ふぃー」
真っ暗な部屋の中、半身を起こした僕の目の前から声がする。
心なしか酒臭いような感じさえした。
ハムスターの回す回し車のカラカラという音が響いている。
「なんなの・・・って。相談したんだよ、君の世話について」
どぎまぎしながら答えると、ため息のような音がした。
「・・・・考えなさいよぉ・・もぅーっもぅーっっ・・なによもぅーっっ」

翌日。お神酒として置いておいたワンカップは空になっていた。
次は自分で考えよう。右斜め後ろに僕は目を送り、うなづいて部屋を出た

289 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/19(日) 16:29:22 ID:sXAvKSQC0
それからしばらくして、僕はインフルエンザで寝込む事になった。
一人暮らしで寝込むのはとても辛い。
病院にも行けず、とりあえずありもので食べつなぎ、衣服もあるのを
着替えて昏睡するかのように寝ていた。
ただ・・・例の声の主が汗で汚れた服を洗濯してくれ、額に濡れたタオルを
あてがってくれていた。
「・・・・ありがとう・・・・」
痛む喉でかすれた声を出し、独り言のようだけどお礼をいうと
「ふ・・ふん。わたしがとり殺すならともかく、風邪で死なれちゃ困るからよっ」
といった。だが何か声が嬉しそうだったのは、気のせいだろうか・・・。

一週間後、お陰様で。本当にお陰様で僕は元気になった。
うちにないはずの桃の缶詰とかが枕元にあったりと、本当に世話になった。
「ありがとう。助かったよ」
いつものように僕は見えない相手にお礼をいった。
そしてふと・・・ハムスターのゲージを見やった。こいつにも心配をかけ・・・
ゲージは荒れ放題で、掃除はおろかエサも満足にやっていなかったようだ。
「な・・・何やってるんだっ?」
思わず声を荒げると、台所の方から声がした。
「え・・・っ?あ、起きたんだ。なっ何よっ」
「僕はハムスターの世話を君に託していたはずだよっどうしてこんななんだっ」
「な・・・・なーっなんですってーっっ」

その後二日口を聞いていない。思えば僕が悪かったような気もする。
ゲージはその後綺麗になり、ハムスターも元気だ。

298 名前:本当にあった怖い名無し :2006/02/19(日) 19:42:24 ID:sXAvKSQC0
僕はハムスターにハムちゃんと名づけていた。
呼ぶと巣で寝ていてもにゅーと出てきて鼻をくんくんさせたものだ。

「ハムちゃん」
久々に呼んでみた。あいつと喧嘩して、家でテレビだけがついている
生活が寂しかったからだ。
だが、ハムちゃんはかつてのように出てくる事はなかった。
がっかりしていると・・・

「ハムポーン。出ておいでーご飯だよー」

と声が背後からした。巣の入り口の綿がもそもそっと動き、にゅーとハムスターが
顔を出した。僕は軽いショックを受けつつ
「ハ・・・ハムポンってなんだっ?!こいつはハムちゃんだっ」
と抗議した。最初に名づけ世話していたのは僕なんだ。
「・・・ふふん。貴方が居ない間、私が世話したんだもん。ハムポンだもん」
すぐ背後から声がした。ふと見るとハムスターはいつの間にかひまわりの種を食べている。

悔しかった。僕はずっとハムちゃんと仲良しだった。
辛いときも悲しいときもハムちゃんに癒してもらっていた。
だのに・・・ハムポンになってしまったんだ。
「・・・・そういえば、君に名前がなかったね」
「・・・・?そういえば、そうね・・・」

僕に悪魔がささやいた。
「君の名前は・・・・レイポンだ」
「ちょ・・・なっ・・なんですって?」
「レイポンだーっっっ」

レイポンとは三日口をきいていない。呼んでも答えないからだ。

302 名前:ポン介 ◆ZMp2Jv9w5o :2006/02/19(日) 20:15:14 ID:sXAvKSQC0
夜半。一心不乱に回し車で走るハムポン・・・を見つめながら
僕はぽつりとつぶやいた。
「ハムちゃ・・・ハムポン。レイポンが全然答えてくれないんだ」
もう一週間がたとうとしている。どんな事があろうと、喧嘩しようと
晩御飯の洗物は翌日には綺麗に洗われていた。
「ふ・・ふん。気になっただけよっ」
朝目覚めると聞きもしないのに、そんな答えが返ってきたのに・・・
「レイポン・・・そんなにいやだったのかなぁ」
一心に回し車を回すハムスターを見つめていると
「・・・なにやってんだか♪」
背後から弾む声がかかった。
「レ・・レイポンッ」
「レイポンいうなっ」
いつものあの声が返ってきた。僕はほろりと流れた涙を見られたくなくて、
ゲージに顔を向けた。
「・・・ふふ。ちょっと事情があって留守にしたの。寂しかったでしょ?ねぇねぇ」
たぶん僕の情けない顔を見たのだろう。悦に入った声が響く。
「あ・・ああ。帰ったんだ?ふーん」
ハムスターが沈黙の中、たまに様子をみながらカラカラと回し車を回した。
夜半にその音だけが響いた。
僕は事情は聞かなかった。レイポンもいわなかった。
ハムポンはひたすら走った。
それでいい。それが僕たちだったから。

316 名前:ポン介 ◆ZMp2Jv9w5o :2006/02/19(日) 21:40:35 ID:sXAvKSQC0
ハムポンがその日は巣に引きこもったまま出てこなかった。
折りしも日曜日。僕は家にいて、レイポンと他愛ない会話を楽しんでいた。
誰もいないはずの台所から鼻歌まじりに洗物をする音。
台所に追いやられ、誰もいないはずの居間から鼻歌まじりに聞こえる洗濯物を干す音。

いつもの風景だった。何も変わらない。

だけど・・・
「あら?ハムポンがキャベツ食べてないわ」
ただ、ハムポンのためだけに昨今高いキャベツを買わされていたのだ。
「え・・・そう?ああ、何も食べてないね」
僕は見えないレイポンと顔を見合わせた。これはおかしい。
いやしんぼのハムポンがこの時間、食べ物に手をつけないなんて。

「・・・病気なのかしら」
すっかりしょげかえった声が響く。僕の胸もすっかりそれで一杯だったが、
声をからして。あえて陽気にいった
「な、何言ってんだよ。ハムポンにかぎってそんな事あるもんかっ」
根拠なんて何もなかった。本当は胸が張り裂けそうだった。
ハムポン・・・どうしたんだハムポ

プーゥゥゥ

高音が響いた。沈黙の部屋の中に。
それにともない、あわわっと巣から顔を出すハムポン。
鼻を両手で何度もこする。その姿はまるで
『くっちゃーいっくちゃくちゃっっ』
といっているようだった。巣の綿から顔を出したハムポンは、鼻をくんくんさせると
エサ箱のキャベツ、固形のエサに突進し、食べ始めた。
「・・・・なんだよ」
「・・・あはは」
確かに、僕たちは顔を見合わせて笑った。