同級生

212 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/18(土) 13:18:10 ID:X/ALyOec0
僕は途方にくれていた。財布をなくしたのだ。
学校のクラスメートの告別式に参加したその帰りの話だ。
そのクラスメートは生まれつき病弱で、学校が始まってまもなく肺炎で入院した。そしてそれっきりだった。
名前は槙村香。すごくきれいな子だった。初めて体験するクラスメートの死に衝撃を受けなかったといえば嘘になる。
しかし、実感があまりないのも真実だ。
僕は彼女の棺を見送ったあと、少し、そのあたりを散策していた。そのときに財布を落としたんだろう。
他の人はもうみんな帰ってしまって、僕一人。お金を借りるわけにもいかない。僕の家はここから、かなり離れてる。

「財布ないし、どうしよう…」そうつぶやいたら、「歩けばいいじゃない」背後でいきなり声をかけられた。
「うわっ」と叫び、後ろを見てまた…「うわっ」
背後に立っていたのはさっき僕が見送った槙村香だった。心臓が飛び出そう。どきどきがとまらない。
「お、おばけ!?」「あたり」あっさりとした返事が返ってきた。そんな馬鹿な。
「お、お、お、」「お?」「お、おばけ!!」「それ、さっき言った」冷たく切りかえされた。
「男でしょ、歩きなよ」あまりに平然としてるので僕も次第に落ち着いてきた。
「あし、あるよね?」「なによ、唐突に。お化けにだって足はあるんだから」そうなのか?
「日本だけよ。ひゅ〜どろどろの薄らぼんやりしたお化けは。ジェイソンとかも足あるでしょ」それはお化けなのか?
確かめようとして触ろうとしたら、さっと避けて「触らないで、下衆!!」うわ、ひどい。
僕の記憶にある彼女はすごくきれいで儚げだったのだが…。お化けの彼女はなんか、ぜんぜん違う。なんていうか。


213 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/18(土) 13:20:15 ID:X/ALyOec0
「パワフル」あ、言葉が出ちゃった。「なによ、いきなり」自分のことを言われたとは思ってないみたいだ。よかった。
「さ、いくわよ」「どこへ?」唐突だ。
「あなたの家にきまってるじゃない。恐竜並みの鈍感さね」僕、ちょっとこの子にときめいてた。でも、嫌いになりそ。
「結構、遠いんだよ。僕の家」「知ってるわよ。☆◇町でしょ」あふん:;
うなだれる僕をおいて彼女はずんずん歩いていく。でも、そっちは逆方面じゃ…。とりあえず、着いていく。
「で、こっちであってるのよね?」香さんが聞いてきた。「いや、反対だとおもうけど…」
「なんで先に言わないの!!こんの、愚図!!」
「おふっぅっ!!」香さんは思いっきりのフルスイングで僕のボディにブローを入れた。
お化けって人もなぐれるんだ…悶絶する僕はそんなことを考えながら、情けないけど…意識を失った。

ほっぺになにか暖かいものが、ぽつぽつと当り、僕の意識は覚醒した。香さんがぼろぼろと涙をこぼしている。
僕は香さんに膝枕されて寝かされていた。
ちょっとどきりとしが、泣いてる彼女があまりにきれいだったのでそのまま薄目で彼女をぼんやりと見てた。お化けの膝枕なんて、あまりないよね。
「うっ、うっ、私の見よう見まねの崩拳が殺人技まで昇華していたなんて…う、うぐぅっ」
…変な子。くすり…と笑ってしまった。
「あ、ああっ、、お、起きて…!?」どだん!!と僕は落とされた。地面がいたい。
「いた、たたた…」…ずん!!と身を起こそうとした僕の上に衝撃が。
「なんで、おきてたのに黙ってたのかしら。この破廉恥小僧…」お、おもい。お化けってかるくないのか…。子泣き爺というお化け譚をおもいだした。
ぽかぽかと僕の頭をたたく。あまり痛くない。さっきのことで加減してくれてる?
痛みがひいてくると香さんのお尻のやわらかい感触がちょっとうれしかった。


214 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/18(土) 13:22:29 ID:X/ALyOec0
「もう…馬鹿…、本当に心配したんだから…」と、僕の背中に、香さんが覆いかぶさってきた。
あた、あた・・・ってる、む、胸が…。やわらかい感触、香さんの鼓動。それが伝わってくる…。
…鼓動? 不意に冷静になった。…とくんとくん。やさしく、力強い音が響いてくる。
僕はガバリとおきあがった。「きゃ…☆」
「君、誰だ? 香さんじゃないんだろ? 悪ふざけはやめろよ。こんないたずら最低だ!!」
僕は確信を込めてこういった。
尻餅をついた自称お化けは、僕を上目遣いに見ていた。…が、立ち上がって、ぽんぽん、と砂をはらう。
そして僕に近づいてきて…。(本当にきれいだなぁ)と思うまもなく、星が飛び散った。

「私は香!! 私は私なの!! 死にたくなかった!! まだ、16なのよ!!」マシンガンのようにまくし立てる。
「お、お…おお」僕は動揺している。やっぱり香さんなのか?
「私だって、死にたかったんじゃないんだから!! 化けてあなたにあうより、生身で会いたかったんだから!!」
「だから、だからこうして来たのに!!」
そこまで言い切って、はっと彼女は口をつくんだ。大きい瞳に涙が溜まっている。
「馬鹿ーーーーーーーー!!」どずん☆!
彼女はまたお得意の殺人崩拳で僕を吹き飛ばした。薄れいく意識の中で最後にみたのは走り去る彼女の背中だった…。

僕が目を覚ましたのは夕刻。巡回中のおまわりさんが僕を見つけて家まで送り届けてくれた。
今日の出来事はいったいなんだったんだろう。
…それからは何事もなく日々が過ぎていく。
変わらない日常。もちろんもうお化けも見ることない。
…ただ、後悔だけがつきまとう。
そしておもうのだ…あの時、違う対応も出来たんじゃないかと…。

220 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/18(土) 14:22:37 ID:X/ALyOec0
僕の後悔は極限にまで達した。

僕は、あの日のことが忘れられなくて、槙村香の家に行ったのだ。
ちいさなアパートだった。ドアのチャイムを鳴らすと男の人が出てきた。
「きみは…、ああ、そうか。香のクラスメートだね。僕は槙村秀幸。さ、中に」男はどうやら香さんの兄らしかった。
「何もないけど、線香でも上げてくれ」秀幸さんの顔は生気があまり感じられなかった。
僕は香さんの霊前を離れると、来訪した理由を正直に述べた。
彼女のことをあまり知らなかった自分。財布をなくして表れた謎の自称お化け。
「あれは本当に香さんだったのでしょうか?」そうたずねると、驚いたことに、秀幸さんが笑い出した。
「ふっ、ふはっ、はっはっはっは」僕は目を白黒させながら秀幸さんが笑いやむのを待った。
「いやぁ、ごめんごめん。いやぁ、笑った笑った」そういいながら、秀幸さんは本当に楽しそうだ。
「こんだけ笑ったのはあいつが死んで以来だ。この前の葬式のとき、僕が喪主だったんだが、君、おぼえていないでしょ」
「え」やば、失礼なことしてしまった。「ああ、いい、いいよ。気にしなさんな」そうやさしく微笑む。
「君のところに出てきた自称お化けは、正真正銘、香だと思うよ」え・・・。
秀幸さんは記憶を振り返っているのか、僕の背後に目線を泳がせ、笑いながら語りだした。
「あいつはなぁ、体が弱いくせに格闘技が好きでな。いや、体が弱いからこそか。調子のいい日はよく、漫画本片手に突きの練習してたよ。面白いだろ?」そういってまた笑う。
「あいつ、見た目はかわいいが結構おてんばでな。△●病院をよく抜け出していたんだよ」△●病院は僕の家の近くだ。
「そのときにな、学校の男子クラスメートを見かけたらしい。捨て猫の前でうろうろしていたんだってさ」
ん?流れが読めない。
「その男子、最初は無視しようとしていたそうだ。香は冷たいやつだと思ったそうだが、男子は戻ってきた。」
「ミルクを持って。で、そんな優しい男の子がそれから気になってしょうがなかったらしい。君のことだよ。」
え、えええエーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「僕は君の住所を調べさせられたんだぜ。君と最後に話したかったんだろうな」僕はショックだった。彼女を悲しませてしまった。

秀幸さんは僕にまたおいでと優しく言ってくれた。

221 名前:帰ってきたツンデレ初心者‐revenge‐ :2006/02/18(土) 14:24:09 ID:X/ALyOec0
謎は解けたが、やるせなさを感じてとぼとぼと帰途に着く僕。

そして、バスに乗ろうとして気づいた。財布がまたない。がっくりくる。
「僕って、ほんと、間抜けだなぁ」一人ごちた。「いまわかったの?」背後で声がした。
「か、かおりさん?」「はい、これ」その手には財布が二つ。あ、はじめに落としたやつもある…。
「もう、失くさないのよ」ぽんと投げてよこす。
「僕、君にひどいことを…」「しっ」と僕の口を人差し指で封じた。
「いいの。今日、線香上げてくれたからそれで多めに見てあげる」
「…」僕は後悔で言葉が継げない。目が潤んできた。
「こ、こらこら、男が泣かないでよ」「だっで、だっで、ぼ、僕、君に…」
「うー、困ったなぁ。じゃぁ…」そういって香さんは…僕のおでこにキスをした。
「はい、泣き止む」あ、ホッペが赤い。「こら、ニヤつくな」僕にどうしろと…。
「お兄ちゃんが全部白状しちゃったから言うけど。私、あなたがすきだったの。すごく」またも唐突。
「だから、死にたくなかった。で、体は死んじゃって気づいたら、このとおり」
人間って不思議ね。なんてお気楽な口調で香さんはいう。
「線香上げに言ったらまた、あえる?」僕はきいた。
「あら、そんな必要ないわよ」さっぱりした性格だなぁ。もう未練もないって感じ…ではなかった。
「いま、あなたの背後霊してるから」…な、なにぃいいいいいい!!!!
「わたし、あなたの守護霊…ん、おじいちゃんだって。にすごく気に入られちゃったみたい(笑)」(笑)じゃねぇ。
「お兄ちゃんも元気になったし、めでたしめでたしよね」あ、そういえば、秀幸さん、僕の後ろを見てたっけ。
「これからは毎日いっしょだからね」なんだかなぁ。

「外に行くときも、ご飯を食べるときも、お風呂に入るときも…ほら、鏡には私が映るわよ」うわ、それはホラー。

こうして、僕は香といっしょにいる。つっけんどんなところもあるが、妙に世話好きな面もある。
困ったことは、女性と話すと髪を引っ張られることかなぁ。

…僕、恋愛できないんだろうか…。ま、彼女がお化けなのも、ありなのかな(笑)

‐終‐