続々・濡れおなご

536 名前:後半(1/5) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 20:54:11 ID:SXjC9ZIX0
あいつは、いつもベッドの枕元に立っている。気になって眠れないんだよな。
「なぁ、お前もこっちに入って来たら?」
急に話しかけられ、あいつはビクッと体を震わす。
「あ・・・な、なんで、私が貴方と一緒に寝なきゃいけないの!?」
「俺が一緒に寝たいだけ。それに、そうやって枕元に立っていられると
気になって眠れないんだ。」
俺の本心だ。駆け引きとか、そういったのは性に合わない。こんな性格の
お陰で大分損してきた。
あいつは、無言のまま俺に背を向け、しばらくして消えていった。
いつもこうだ。正直な気持ちを伝えると相手に避けられる。
俺は、明日には、またあいつが出てきてくれることを祈り、
静かに両目を閉じた。意識が闇に同化していく。

537 名前:後半(2/5) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 20:55:06 ID:SXjC9ZIX0
「ちょっと!どっちかに寄りなさいよっ!私が入るところないじゃないの!」
突然の聞き慣れた声で、俺は飛び起きた。
「お前・・・来てくれたのか。」
「い、一緒に寝た方が湿気が強くなると思ったから・・・しょうがなく一緒に寝るんだからね!
私が一緒に寝たいわけじゃないの!分かった!?」
そう言いながらあいつは俺の横に入ってくる。
背をこちらに向けたままだが、あいつの息づかいが聞こえてくるほど俺たちは近付いてた。
俺は何も言わずに、あいつを後ろから抱きしめた。あいつは、一瞬ビクッと肩を振るわせたが
何も抵抗をせず、俺に抱かれる。
暖かかった。
何百年もこの世に残る、人間ではない存在のあいつ。それでも・・・あいつは暖かい。
「まだダメだよ。」
ポツリとあいつが呟いた。
「分かってる。しばらく・・・このままで居させてくれ。」
「うん。」
俺の声は―――あいつの声も―――震えていた。

538 名前:後半(3/5) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 20:56:03 ID:SXjC9ZIX0
「なぁ、一つだけ聞いて良いか?」
あいつから返事は無い。俺は構わず続ける。
「お前、生きていた頃の記憶あるんだよな・・・。
まだ旦那のこと、好きなのか?」
あいつは、力任せに俺の腕を振り払い、俺の方へ体を向ける。
「な、何言ってんのよっ!そんなこと、貴方に・・・か、関係無いでしょ!!」
いつもの照れ隠しの言葉とは違う―――触れられたくない物に触れられたからか、
本気の言葉に聞こえた。
俺の口から勝手に次の言葉が出ていた。
「関係あるさ!お前に惚れちまったんだから!」
言葉にして・・・あいつにぶつけて、やっと本当の・・・自分の気持ちが分かった。
あの記述を知ってから、俺の中に渦巻いていたモヤモヤが消えていく。
「なっ・・・人間と妖怪が幸せになれるわけ無いじゃない!
む、無責任なこと言わないでっ!」
確かに、先程までは俺も妖怪と結ばれるなんて無理だと諦めかけていた。
でも・・・一抹の希望は見えた。
「お前を抱いて・・・お前の暖かさを知って・・・
お前の中にも人間の部分が沢山あるって分かった。
大丈夫。俺に任せろ。俺を信じろ!」
無言のまま・・・
俺はあいつと、あいつは俺と、瞳を合わせたまま時が流れた。

539 名前:後半(4/5) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 20:56:55 ID:SXjC9ZIX0
「私、結婚なんてしてないの。」
永遠に続くかと思われた沈黙が破られる。
あいつは、話を続けた。
「彼が居なくなったのは、結婚式の前日。彼は死んだわけじゃないの。
私を捨てて、他の女と逃げたのよ。だから―――もう、何も思ってないよ。」
俺は、あいつにかける言葉が見つからない。あいつは、まだ言葉を続ける。
「だから、私は綺麗なままなの。ねぇ・・・信じてるからね!」
俺はやっとの事で声を出す。
「あぁ、俺を信じてく・・・・んっ!?」
何が起きたか理解出来なかった。
唇に柔らかい感触が・・・あいつの顔が俺の目の前にあった。
「し、信じてるからねっ!」
呆然とする俺を尻目にあいつはクルリと背を向ける。
俺は、何が何だかわからないまま・・・朝方まで眠ることが出来なかった。

540 名前:後半(5/5) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 20:57:41 ID:SXjC9ZIX0
「いつまで寝てるのよっ!いつも冷めないうちに食べてって言ってるでしょ!」
「ん・・・あ、あぁ。」
昨夜の事がまるで無かったかのように、いつも通りのあいつだった。
俺は、いつも通り、あいつの作った朝食を食べ、大学へ向かう。
「んじゃ、行ってくるわ。」
あいつは何故か赤くなっていた。
「ちょっと待って・・・ん・・・、ん・・・。いってらっしゃい!
また帰るの遅かったら怒るからねっ!」
いきなりのキス。そしてあいつは俺を蹴飛ばし、ドアを閉めた。

第二話完。