続・濡れおなご

522 名前:(1/3) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 10:18:05 ID:SXjC9ZIX0
あいつとの生活が始まって1週間。
しっかりと栄養管理された食事のお陰で、俺の体調は以前よりも良くなっていた。
唯一の悩みの種は、湿気による寝癖くらいだな。
悪態を付きながらも、俺のことを思ってくれているあいつのために、
そして、俺自身のために、俺は民俗学の教授の元へこの1週間通い詰めていた。
いくつかの文献を教えて貰い、それを読み漁った。しかし、あいつを助けられる方法は
見つからなかった。ただ、その中にひとつだけ・・・気になる記述があった。

『濡れ女子は水難にあって死んだ漁師や、水辺で働く人の妻たちの帰らぬ夫に対する
悲しく強い思いが作り出した妖怪』

あいつにも旦那が居たのだろうか・・・。今は旦那のことをどう思っているのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は帰り道を歩いていた。いつの間にか、俺のアパートが見えてくる。
夜風に乗って、魚を焼く香ばしいかおりが漂ってくる。
「今日は焼き魚か・・・旨そうだな。」
俺は、何気なく呟いた一言に、こそばゆいような感情を覚えた。


523 名前:(2/3) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 10:19:25 ID:SXjC9ZIX0
ふと思いつき、部屋へ行く前に外から中の様子を覗いてみる。
あいつは台所のイスに座っている。
じーっと・・・一点を―――ドアを見つめ―――寂しそうにその長い髪に
指を絡めている。
「ただいま。」
錆だらけのドアを開け、あいつが待っているだろう俺たちの部屋へ入―――。
「ただいま。じゃないっ!毎日、毎日帰ってくるの遅いよ!あ・・・
別に寂しいからじゃないんだからねっ!ご飯が冷めちゃうから・・・
じゃなくてっ!!湿気だらけの部屋に居てもらえないと殺せないでしょ!
陰気な顔してるくせに、なんでそんなに外出ばっかするのよっ!」
あいつは台所から、物凄い勢いで玄関まで走ってきた。
「まぁ・・・な?俺も男だ。色々あるんだよ。」
「色々って!?
あ、それよりも・・・・どうしたの?妙に元気無いし・・・だいじょ・・・。」
あいつはそこまで言いかけて・・・少し赤くなりながら言い直す。
「コ、コホン、コホンッ!し、心配してるんじゃないんだからっ!
ただ、私の湿気の効き目が気になっただけ!ほんとだからねっ!」
うわ、咳のつもりだろうけど、思いっきり喋ってるし。
「なんだ、そのわざとらしい咳は。冷めちゃうんだろ?飯食おう。
外にまで良い香りが漂ってて、もう我慢できねぇよ。」
「あ、うん。」
あいつは赤くなったまま、サササッとテーブルまで行き、俺のイスを引いてくれる。
「ありがと。お、うまそぉ!」
今日のメニューは、鯵のひらき、鰹のたたきのサラダ、お吸い物にはツミレが入ってる。
「な、なに喜んでるのよっ!お魚屋さんが旬だから美味しい・・・じゃなくて安くしてくるって言ったから・・・。
それに、全部魚で済ませれば楽でしょ?て、手抜きをしたかっただけなのっ!」
「でもさぁ〜、お吸い物に入ってるツミレ、手作りじゃ―――いや、なんでも無い。いただきますっ!!」
俺は、あることに気が付き、からかうのは一旦やめることにした。
あいつは、真っ赤になって――たぶん恥ずかしくて――今にも泣き出しそうだった。

524 名前:(3/3) ◆njsK9r1FDk :2005/12/18(日) 10:21:26 ID:SXjC9ZIX0
恥ずかしがるあいつと一緒に食器を片付け、風呂へ入る。
この前、冗談で一緒に入ろうって言ったら真っ赤になって消えちゃったんだよな。
今日は、話すことがあるし・・・誘うのはやめとこう。

風呂から上がり、あいつと一緒にテレビを見る。
若手芸人のコメディ番組なんだが、隣のあいつを見ている方が面白い。
あいつは、俺に笑ってるところを見せたくないのか、両手で口を塞ぎながら
食い入るようにテレビを見つめている。自分を見つめる俺には全く気が付いていないようだ。
そのとき、テレビに映し出される舞台に、突然黒いラバーで身を包んだ
ヒゲ男が現れた。
『ハァ〜イ、ハード○イです!フォーーー!』
「ぶっ!な、なにこの人っ!?こわっ! こ、こし振ってるよ〜!??」
ハード○イがツボなのか・・・この濡れ女子。
俺の視線に気が付いたあいつはすぐに顔を背ける。
「お、面白いんじゃないんだからねっ!わ、私の生きていた時代にはこんな人居なかったから
気になってるだけなんだからねっ!」
そう言いつつも、ちらちらハード○イを見ては笑いをこらえている。
「俺が夏休みに入ったら、こいつのライブにでも行くか?」
あいつは、何を言われたか理解できずに一瞬固まる。
「え・・・で、でも私が居たら、あなた周りの人に・・・。」
「そんなこと気にするなよ。飯作ってもらってる礼だ。行きたくないなら別に良いんだけど?」
「誰が行きたくないって言ったのよ!早とちりして―――。バッカじゃないの?約束だからね!
絶対連れて行ってよ!」
そんなに好きなのか・・・まぁ、喜んでくれるなら良いかな。
「おう。約束だ。ほれ、もうテレビ終わったし寝ようぜ?」
「うん!」

あいつは、いつもベッドの枕元に立っている。気になって眠れないんだよな。
「なぁ、お前もこっちに入って来たら?」